帰って下さい冬将軍！｜リアクション

帰って下さい冬将軍！

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　窓の外が白一色に染まっていた。
　外の風景を見て、佐藤タカシはゆっくりと目を瞬かせた。
　季節外れの雪……というには随分と積もっている。まるで真冬のような景色は、どうやら見間違いでも何でもないらしい。
　再度窓の外に視線を向けるが、目に映る情景は白一色のままだった。
（――猫ちゃん、大丈夫かな。急に寒くなったし、暖かい所を見つけられてるといいんだけど）
　寝子島に生息する猫の心配をしながら、箪笥の底から冬物の衣類を取り出す。
　この状況を考えてはみたものの、猫以外に取り立てて気にするところはないだろうという結論に達した。
　確かに寒くはあるが冬服がないわけではないし、生活に困るわけでもない。ただ、少し早く冬がきただけなのだと――タカシは洋服を着込む。
　せっかくだから、外に遊びに行こう。手袋を嵌めた片手にカメラを携え、あわよくば猫と雪景色の写真が撮れないだろうかと、タカシは自宅を後にした。
　冷たい風が頬を刺す。足跡のない新雪を踏むと、ぎゅっと小さな音がした。

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　深倉理紗子の視線は、窓の外と目の前の男性――冬将軍と名乗る男を往復していた。
　窓の外は相変わらずの雪。止む気配はなく、しんしんと降り続けている。
「……本当なんですか？　いえ、疑うわけではないんですけど……」
「こんなことで嘘を吐いても仕方がないだろうに。証拠を見せろ、と言われたら困ってしまうがね」
　申し訳なさそうに目を伏せる理紗子を見て、冬将軍は笑いながら豊かな髭を撫でる。
「では、私がご案内します」
「ありがとう、お嬢さん。あなたのような美人さんに案内してもらえるとは、儂も運がいい」
　（――と言っても、この島のことはあまり知らないのよね……）
　申し出たは良いものの、理紗子は寝子島に詳しいわけではない。冬将軍と連れ立って旅館を出たところで、理紗子の足が止まる。
　どこへ行けば良いものかと、迷った末に冬将軍へ視線を向けた。恰幅の良い男は、笑みをたたえたまま理紗子を見下ろしている。
「何か、希望とかは……」
「そうだね、楽しませてくれるのならどこへでも……ああ、そうだ。お嬢さんのお名前を聞いていなかったね」
「私は、深倉理紗子です。ええと……」
「理紗子さん。冬将軍で構わないよ」
「分かりました、冬将軍さん。それでは、行きましょうか……と言っても、私もこの島のことはさほど詳しくないのですが」
　つられるように笑って理紗子は歩き出す。雪は静かに、寝子島を白く塗り替えていた。

「うーん……旅の定番って、確かその土地の市場で新鮮なものを食べるってのがあったような……」
　ぽつり、ぽつりと互いのことを語りながら旧市街を歩く。ふと、いつか目にした広告を思い出して理紗子は呟いた。確か、寝子島にも魚市場はあったはずだ。
「魚はお好きですか？」
「魚か。魚は好きだよ。この島には、市場があるのかね？」
「ええ。……ここから、少し遠いですが……案内しますね」
　さくさくと、雪に足跡を残しながら市場へ向かって歩き出す。ふと、理紗子は歩みを緩めると冬将軍へ視線を向けた。
「ええと、あっちに行くと郵便局や役場があります。あと、病院も。更に先に行くとシーサイドタウンに出て……スタジアムやアウトレット、大学や高校もあります。もっと先に進むと星ヶ丘といって、教会なんかが――」
　知っている限りの情報を口にして、寝子島の案内をする。冬将軍は人の良さそうな笑顔で、頷きながらその言葉を聞いていた。

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