帰って下さい冬将軍！｜リアクション

帰って下さい冬将軍！

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「すみませーん、おでんくださーい♪　具は、たまごと大根とがんもと厚揚げでお願いしまーっす」
　バイトに向かう途中、館長への土産にしようと考えて呉井陽太はふらりと屋台に立ち寄った。
　かなえは、眉を下げつつ笑いながら片手を振る。
「ごめんなぁ、たまごと大根はないねん。代わりに、餅巾着とか焼き豆腐はあるんやけど……湯豆腐もあるで」
「じゃあ、餅巾着と焼き豆腐でー」
　注文を済ませた陽太の目に、一際体格の良い男が映る。あれが噂の冬将軍だろうかと、眼鏡の奥からじっと観察をする。
「――さすがに、今すぐというわけにはいかないが。明日にはこの雪は止むだろう」
「ええ、また……冬になったら会いましょう」
　修は軽く会釈をし、冬将軍と握手を交す。立ち上がった冬将軍は、寝太郎に近付いた。
「君も、ありがとう。厚揚げは美味しかったよ」
「どういたしまして～。観光ですか～？」
「ああ、こうしてこの島を見て回っている。お勧めの場所はあるかな？」
「あ、良かったら案内しますよ。外で遊んでこいって家を追い出されて、暇だったんですよねぇ」
「なら、オレのバイト先に来るのはどうです？　面白い物はたくさんあるから、退屈はしないと思いますよぅ」
　片手におでんの入った袋を提げ、陽太は星が丘の方角を指差す。二人は頷き、陽太と共に歩き始めた。
「まいどありー、また来てなぁ」
　三人の背中に向け、かなえは明るい声を掛ける。修は椅子に座りなおし、口を開いた。
「ありがとう。おかげで話が円滑に進んだ」
「ん？　うちはただ、屋台やってただけやで。雪、止みそうで良かったなぁ。これで明日から、また配達に行けるわ」
「そうか。……もう少し食べていくよ。焼き豆腐と五目揚げを頼む」
　差し出された器を受け取り、修はほっと胸を撫で下ろした。近いうちにまた再会するだろうという予感を胸におでんを口に運ぶと、優しい味が広がった。

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　かまくらの中は暖かい。さすがにこたつや火鉢を持ち込むことは出来なかったが、ただ寛いでいるだけでも十分な暖かさがある。タカシは両手を合わせると、箸を置く。食べ終えたカップラーメンの容器を隅に置いておき、満たされた腹部を片手で撫でる。
　ラーメンのおかげで体は随分と暖まった。そこで、次に取り出したのはアイスである。
　表情には出ないものの、心を弾ませながらパッケージを開けて、二つ並んだ丸い物体を見る。牛皮にバニラアイスが包まれたそれに付属の串を刺し、アイスを食べながらタカシは雪景色を眺めていた。
かまくらを作るという重労働の後に食べる甘いもの、それも真冬に暖かい場所で食べるアイスというのは格別である。
雪に包まれた外の景色も幻想的で、普段とは違った趣がある。毎年冬は来るが、ここまで積もることは少ない。
　冬ならではの楽しみを、一足早く提供してくれた冬将軍に感謝しながら、タカシは温かい緑茶で冷たいアイスを流し込んだ。
　体が暖まったところでかまくらから出ると、雪玉を作り始める。せっかくだから、この冬をもっと楽しもうと――タカシは雪玉を転がし始めた。