帰って下さい冬将軍！｜リアクション

帰って下さい冬将軍！

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　寝太郎は寒さに体を震わせた。陽が落ちてきたことで、冷え込みが強くなったようだ。
「すごかったなぁ……あ、あとはどこ回ったんですか？」
「魚市場と山、あとはシーサイドタウンも回ったか。どこも良い所だった」
「結構色々回ってるんですね。じゃあ、どこに案内しようかなぁ……そういえば、どうして寝子島に来たんですか～？」
「たまたま、だな。北へ向かう途中だったんだがな、目に付いてふらっと寄ってみた。こんなに良いところだとは思っていなかったな」
　足跡を雪に残しながら、二人は旧市街の方へ向かう。道路の脇や、家の玄関に雪だるまがいくつか作られているのが目に付いた。
　雪に染まった寝子島を眺めながら二人で歩き続けていたが、ふと寝太郎が足を止めた。
「……あ。たい焼きだ。たい焼き、食べましょうか」
　冬将軍を手招きし、たい焼きの屋台に並ぶ。この寒さのせいだろう、賑わっているようだ。
「たい焼きっていうのは……魚の形をした生地に、あんこを詰めたもの、でいいのかなぁ？　はい、どうぞ」
　たい焼きを冬将軍に差出し、大きな口を開けてかぶりつくと甘さが口いっぱいに広がった。温かさに思わず息を吐く。歩いていたため、そこまで寒さは意識していなかったが、体は冷えていたようだ。
「……うん、美味いな」
「でしょう？　あんこだけじゃなくてクリームもあるんですよ～」
　たい焼きを食べ進めながら、寝太郎は案内を続ける。雪に彩られた寝子島は、いつもと違う場所のようだった。
「……それで、ここが自分の家、猫島寝具店です。シーツから羽毛布団から、枕まで、何でも売ってますよ～。……そういえば、お名前……じーまさん？　ズィーマさん？　でしたっけ」
　足の向くまま、自宅についたところで寝太郎は首を傾げた。その様子を見て冬将軍は笑う。
「ああ……馴染みがないようなら、冬将軍で構わんよ。また、この島に来た時には店にも寄らせてもらおうかな」
　目の前の男が、ねこったーで話題になっていた冬将軍だったのかと寝太郎は目を丸くする。
「はい、それじゃ……また寝子島に遊びに来て下さいね」

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「温かい飲み物と、がんもどきを……」
　真っ白な人影は、震える手を伸ばして注文を告げた。前髪の隙間から覗く瞳は赤い。
「随分、寒そうやなぁ……傘、持ってないの？」
「買うのももったいないなって思ってな……うう、あったかい……」
　出された湯のみを両手で包むように持って温かい茶をすすると、凍っていた体がほぐされるような、そんな感覚を覚える。
　寒そうな都の様子を見て、かなえは店内から毛布とビニール傘を持ってくる。
「これ、良かったら使って。そんなんじゃ風邪引くやろ」
「……ありがとう」
　体についた雪を払い落としてから、都は毛布をかぶる。受け取った傘は傍らに置いておき、おでんのつゆを啜った。
「この雪、明日には止むらしいで」
　修と冬将軍の会話を思い出しながら、かなえは都に声を掛ける。
「そうなのか？　……ん、おいしい」
　熱々のがんもどきに息を吹き掛け、咀嚼をする。温かい食べ物に、自然と都の表情が緩んだ。
「さっきのお客さんが言ってはったわ。雪が止んだら、リヤカー引いて豆腐売りに行けるなぁ。普段はこうして屋台出してへんけど、店で買えるから今後ともよろしゅう」
　背後の、西野町とうふ店を指差しながらかなえは言う。豆腐屋の娘に生まれた者として、営業努力は欠かさない。
　リヤカーを引くことが出来れば、足が悪く店までやって来られないご婦人にも豆腐を届けることが出来ると――かなえは、リヤカーに設置された棚を軽く人差し指で叩いた。

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