和装パーティへようこそ！｜リアクション

和装パーティへようこそ！

PM13:00

気づけばパーティ開始の時間はとっくに過ぎていた。
予想以上の参加者で店主と弥生先生を中心に、御巫時子、水都乃れい、水無月雅、
御鏡聖、逆巻天野の５人が着付けを手伝い、ようやく全員分の着付けが終了した時には、
時計の針は午後１時を指そうとしていた。

「予想以上に時間がかかっちゃったわね」

弥生先生は袖を留めていたひもを外すと、額にじんわりと滲んだ汗をぬぐった。
武道場内には着物姿の生徒たち。
着なれない着物姿に挙動不審な子もいれば、普段から慣れているのか堂々としている子もいる。
そんな生徒たちを平等に微笑ましく思っていた。

「樋口せんせー」

ぱたぱたと走り寄ってきたのは黒地に赤い花の着物を纏った桜庭円だった。

「あのね、三味線教えてほしいの。あと、これ旧市街商店街の呉服店の着物だよね？」

円の問いかけに弥生先生は首肯する。
どうやら店主以外の人に着付けてもらったらしく、店主とは顔を合わせていないようだ。

「そうよ。お年を召されて１人でお店をするのが難しくなったから、閉めちゃうんですって」

言いながら、弥生先生の表情が淋しそうに曇る。円はそんな弥生先生を見ながら、

「ボクもね、そのお店何度か行ったことあるんだ」

そう言って弥生先生の手を取ると、

「ねぇ先生、おばあちゃんが好きな曲で、ボクが三味線で弾けるような曲ってなにかないかな？」
「ええ？そうねぇ……」

少し考え込んだ弥生先生は、近くにいた水無月雅の書道セットを借り、半紙にさらさらと譜面を書きだした。

「樋口先生は取り込み中かぁ。……少し弾いてみてもいいかなぁ」

黒い髪に赤い椿のかんざしを挿した雨寺凛が三味線を手にする。
赤地に黒の千鳥模様が相まって三味線のはずなのにギターを構えている印象を与える。
しかし普段のギターほど上手くいかないのか何度か試行錯誤してようやく思うような音を出すことに成功した。

「いやあ、三味線はむずかしいなぁ」
「どれ、ワシも久しぶりに弾いてみるとしようかのう」

凛の隣に腰を下ろしたのは、銀鼠の着物と同色の羽織を羽織った金堂睦月。
睦月は慣れた手つきで和音を奏でた後、少しゆっくりとした速さで寝子島高校校歌を弾きあげた。

「すっご……上手いねぇ！」

その音色に凛はただただ感動の声を挙げた。

「少し経験があってのう」
「よかったら教えてもらえないかな？ギターやベースは慣れてるんだけどこういうのははじめてなんだぁ」
「ワシでよければ」

強面の顔を少し緩めて、凛に手ほどきを行う。
はじめて触ったにしては上達が早いことに睦月は目を細めた。

睦月の指導でなんなく用意された「さくらさくら」の譜面を弾ききり、
両手を挙げて喜ぶ凛の元へ弥生先生と桜庭円がやってきた。
手には数枚に及ぶ墨の譜面。

「実は協力してほしいことがあるんだ」

円の提案に、凛と睦月の２人は顔を見合わせて力強く頷いた。