和装パーティへようこそ！｜リアクション

和装パーティへようこそ！

AM10:00

「今日は本当にありがとうねぇ弥生ちゃん」
「いいんです。おばあさんにはお世話になりっぱなしでしたから」

人気のまばらな旧市街商店街の一角で、着物姿の凛とした若い女性と、同じく着物姿のしわくちゃな笑顔が印象的な女性が立ち話をしている。
若い女性は樋口弥生先生。寝子島高校の音楽教師だった。
相対するのは旧市街商店街にある呉服屋店主、87歳。まだまだ元気そう。
2人は呉服店の名称入りの車に着物や帯、着付け用具などを積み込未作業を終えたところだった。

「本当は最後なんて言ってほしくないのだけど、しかたないのよね」
「そうだねぇ。長い事続けさせてもらったし、思い残すことはないんだけど」

店主は自分の背後にある年季の入った呉服店を見上げる。
戸口には閉店の張り紙が貼ってあった。

「いつかは閉めるつもりだったんだ。数年前後しただけのことだからねぇ」

ふらふらと、後ろ髪を引かれるような調子で。
呉服店に残っていたありったけの着物を積み込んで。
小さな車が、寝子島高校へ向けて出発していった。

AM10:45
「……きた」

今日のパーティ会場である武道場前で逆巻天野が2人の乗った車を待ち構えていた。

「おばあさん」
「おや、天野くんかい。来てくれたんだねぇ」

車を降りた店主が天野に駆け寄る。87歳とは思えないしっかりとした足取りだった。

「おばあさんのお店には、お世話になりましたから」
「そうかいそうかい。嬉しいねぇ」

顔を綻ばせた店主につられ、天野も少しはにかむように「手伝いますよ」と告げた。

AM11:45
「こんにちは」

まず武道場に姿を現したのは桜色の小紋を身にまとった御巫時子だった。
肩に乗った鳥が小さく羽をばたつかせる。

「野点用に用具を持って来たのですが、表に傘を立ててもよろしいでしょうか？」

どうやら私物の野点傘を持参してきてくれたようだ。
「あら素敵」とご機嫌な弥生先生と時子は野点の準備をしに外へと降りて行った。

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