和装パーティへようこそ！｜リアクション

和装パーティへようこそ！

人数の割に白熱した戦いが繰り広げられている百人一首大会をみながら、光村日向はすごいなぁと息をのんだ。
母親がきちんと着せてくれた青地に波模様の着物を着ている。
肩には猫が乗っていた。

「みんなすごいね、コトラ。ほら、あれ同じクラスのシダさんだよ」

コトラと呼ばれた猫は小さく鳴くと、日向の肩から滑り降りる。

「あ、だめだよコトラ、戻って戻って！」

日向の静止もむなしく、コトラはとてとてと走って行った。
走って行った先に置いてあったのは、弥生先生の私物の琴。

「これ、琴……だよね。実物は初めてかも」

コトラを肩の上に戻し、今度は日向が興味津々で琴を観察する。

「触っても大丈夫……かな？」
「ねぇ、ちょっと」

日向が琴の弦に触れるか触れないか、くらいのタイミングで肩を叩かれる。

「ぅわぁああっ！」

不意打ちにびっくりしたのか、大げさにこける日向。
その姿を見て肩を叩いた人物……桜庭円は首をかしげた。

「そんなに驚くことないじゃない」
「す、すみません、いきなりだったので、つい」

そう言って頭を下げる。

「そんなことより、君、琴やる？」
「えっ、そんな急に言われても」
「ちょっときて」

円に腕をひかれ、連れて行かれた先では雨寺凛と金堂睦月が三味線の練習をしていた。
目の前には半紙に書かれた譜面がずらり。

「実は呉服屋のおばあちゃんのために思い出の曲を演奏しようと思っているの。
君琴で参加しない？」
「そんな、いきなりは無理ですよ……」

店主のために演奏する、というのは興味が沸くし手伝いもしたい、が、いきなり琴はハードルが高いように思えた。

「じゃあ尺八は？メロディラインは三味線がするし、合間合間に吹くだけなんだけど」
「あ、それなら……できそうなきがします」

今度はしっかりとうなずく。
何事も挑戦してみないと、とコトラに頷いて、日向は尺八の練習を始めた。

「なかなか白熱した戦いになっているな」

弓弦原譲は百人一首大会の方を見ながらひとり頷いた。

譲の後ろでは八十八旗信彦が高梨彩葉をナンパ……もとい彩葉の和装姿を褒めている。

「大和撫子という言葉を体現するかのようだね！ピンクの着物が清楚さを際立出せている」
「清楚って、そんなキャラじゃないのに」
「いやいや、和服が似合うっていうのはそれだけで十分清楚なんだよ。ハーフアップにした髪型も可愛らしいし」
「褒めても何も出ないよー？」

そんな会話が聞こえてきた。

「百人一首をしている奴らのために、お茶を点てておこうか」

その呟きが花厳望春の耳に届いたのだろう。
望春は譲を捕まえると「お茶を教えてほしい」とお願いした。

「構わない。教えてやるから一緒にやろう」

あっさりと了承し、２人分の茶器を用意すると、手早く準備し望春を座らせた。
目の前には北条冬華がきちんと正座した状態で栗饅頭を食べていた。
黒地に枝垂れ藤の着物で、肌の白さが際立って見えている。

目の前でお茶を点てはじめた２人を興味深そうに観察すると、正座した状態のまますすすと
移動し、前側から覗き込むような形で手元の観察を続けた。

望春は一瞬戸惑うようなそぶりを見せたが、教える側の譲がなんの反応も示さなかったので
そのまま放っておくことにした。

譲のアドバイスを受けながら点てあげたお茶を、ひたすら観察していた冬華に差し出す。

「よかったら、どう？はじめてだから味の保障はしないけど」
「いいんですか？ありがとうございます」

望春から茶碗を受け取ると、お返しに、と栗饅頭の入った箱を差し出した。

「あ、ありがとう」
「いいえ。美味しいです、お茶。ありがとうございます」

にっこり笑う冬華に、望春もつられてにっこり笑った。