温かい気持ちになれるような｜リアクション

温かい気持ちになれるような

　　【オープン直前の、鏡の中で】

　秋の柔らかな光が、きらきらと入り口のガラスに反射している。
　平日はそこそこ、休日にはイートインスペースで相席も発生するこのお店は、もうすぐオープンで外からは見えない忙しさに溢れていた。

　「……さて、やるか」

　八葉ひまりは曇った雰囲気を振り切るように顔を上げた。
　接客は苦手だが、ひまりの姉と妹は今日、予定が入っていて外出中。自分しか店のお手伝いが出来る人がいない。
　そう、自分しか。
　接客の要を担う母は父の再婚相手で、実母はもうずっと昔に他界している。
　それでも、それを知りながらも隔たり無く、自分を名前で読んでくれる温厚な母に文句がある訳ではない。
　しかし、それでも──

　住まいと兼ねられたお店にはまだ出ずに、ひまりは洗面台の鏡の前で、接客用にと笑顔を作る。しかし、無理に作った笑顔は、前に姉と妹にあきれられたものと何一つ変わっていない。
　これなら、接客用の笑顔など作らない方がましだと、自然な表情に切り替えた。
　今日も頑張ろう、そう自分に言い聞かせて、ひまりはお店の方へ向かっていく。

　そして、開店時間に合わせて、ドアの内側から掛けられていたおしゃれな看板を引っくり返した。

　『ＯＰＥＮ』

このページにイラストを設定する