北欧から来た少女　～うさぎさんオーヴァードライブ～｜リアクション

北欧から来た少女　～うさぎさんオーヴァードライブ～

【駐車場からオーヴァーロード？　ちょっと待ってようさぎさん！】

「あわわ、ホントにみんないなくなっちゃってる……」
　そう言って飼育小屋の前で愕然とする千鳥雅人。
「千鳥さん、ちょうどいいところに来たわね」
　そう言って、自分の装備を確認している橘千歳は、クラスメイトの来訪に驚きつつも、目撃証言をねこったーで調べたりと忙しそうだ。
「あ、千歳ちゃん、俺も何か手伝えないかと思って……事故にでもあったら大変だし」
「分かったわ、私を手伝ってくれる？　ちょうど駐車場当たりで見かけたって言ってる人がいて、調べたいのだけど」
「うん、もちろん手伝うよ」
　そう言って、餌やらを持って移動する二人。
　その前に、ふと千歳は美野梨に声をかけた。
「神野さん、行ってくるわ」
「ごめんね、色々不手際があって……」
「掛け持ちで、あまり顔出せてないけど、私も生物部の部員の一人だもの」
　だからそれ以上は、言わないでいい。そう言葉にせずに千歳はそっと伝えた。
　それから、美野梨の肩をぽんっと軽く叩くとすぐに雅人と駐車場へと向かった。

　……。

　途中、雅人はしっかりと千歳からうさぎについてのレクチャーを受けていた。
「うさぎは機敏で視野も広いから、慣れてない者が素手で捕まえられるような生き物じゃないらしいわ」
「なるほど、網を持ってきて正解だったねぇ」
「そうね。それに骨がもろかったり、臆病であまり驚かせるとショックで死ぬこともあるとか……」
「うわっ、それは大変だねぇ」
「でも、ただ捕まえたらいいというものでないし、捕まえる際に怪我させたりしたら本末転倒よね」
「気を付けて捕まえないとねぇ」
　とまあ、そんな感じで駐車場についた雅人と千歳は二手に分かれて静かにうさぎを探すことにした。
　駐車している車の下を一台一台丁寧に見ていく。
「ウサギさ～ん、どこ～？」
「……」
　そっと声をかける雅人と、物言わぬ顔で探す千歳。
　ついに、最後の数台になった時だった。
「い、いた」
　誰の車かは知らないが、どうやら、車の前輪の近くで丸まっているうさぎがいた。
「私は、そのまま道路に抜けないように見ていよう」
　そう言って、少し離れる千歳。
　そんな千歳を横目に見つつ、伏せてうさぎと目線を合わせようとする雅人。
　うさぎの方は、雅人に気づいたようでじりじりと後ろへと下がる。
「怖くないよ～。こっちにおいで～♪」
　餌をちらつかせつつ、ゆっくりと待つ雅人。
　ゆっくりと近づくうさぎ。
「もうちょっとだねぇ……？」
　そう言って、抱きとめようとした瞬間、バヒュッとうさぎは雅人の横をすり抜けでダッシュした。
「あっ、しまっ」
「……まぁ、こんなものよね」
　その進路上に網をひょいっと合わせた千歳。
　すぽっと間抜けな音が聞こえた気がした。じたばたと網の中で暴れるうさぎ。
「いい子、いい子にゃー、いや、いい子うさ～」
　そう言って、傷つけないようにうさぎを落ち着かせる千歳。
　その千歳の言葉に驚く雅人であるが、こうして、駐車場へと向かったうさぎは無事に保護された。
「ふふ……可愛いなぁ……」
　生物部に返す前にちょこっとだけうさぎに触らせてもらった雅人は頬を緩めていた。
　白くて、あったかくてそのもふもふとした感触にご満悦である。
　ちなみに、このうさぎは何を思ったのかは知らないが、後に千歳と雅人が飼育小屋に来ると、特に喜んで遊んで遊んでというような動きをするようになったとかならないとか。
　まったくもって動物の心は神秘である。

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