フリマっ！｜リアクション

フリマっ！

　さてここで目を転じ、やはり会場内の小山内海、橘千歳、御剣刀の三名を追ってみましょう。
　ちょっとばかり本日は、ぎこちないところのある三人です。
　寝子島駅で合流したところから、今日はいささか変でした。
「小山内も一緒なんだ？」
　刀が言い、
『え、え？　なんで刀くんがいっしょに？』
　こう書いたスケッチブックを持ったまま、海も目を丸くしていました。
　両者の反応には千歳も驚いています。
「あ、あれ？　最初から三人で行くって話だったのよね？」
「いや」
『そうはきいてなかったよ』
　そうです。
　刀も海も、自分と千歳の二人きりの約束だと思っていたのです。
　まあそれはそれ、なら三人でフリマに行きましょう、という話になったわけです。
　けれども、しばらくは微妙な雰囲気が流れていました。
　――そうなんだ、刀くんが千歳ちゃんを誘ってたんだ。
　なんとなく海は作り笑いを浮かべています。
　――そっか、千歳ちゃんは誘ったんだ……。
　そっと心の中で繰り返しました。
　それでもやはり笑顔です。けれど、目だけは少し、寂しげに。
　刀と千歳が毎朝一緒に、剣術の練習をしていることは海も知っています。
　だったらそこに、なんらかの化学反応が生まれてもおかしくはないはずでしょう。そのことを海は失念していました。いえ実際は、薄々勘づいてはいたけれど、目を背けていただけかもしれません。
　胸が痛い。
　胸の奥をちくちく、針でつつかれたように痛むのを海は覚えました。
　海にとって千歳は親友です。そう信じているのですが今は……今だけは、千歳が誰か、見知らぬ人であってくれたら……などと思ってしまいます。
　いけませんね。
　心を落ち着かせるべく海は深呼吸をしました。
　たしかに千歳は先に進んでいるけれど、まだその背中は見える、手は届くはずです。

　星ヶ丘寮に住む三宅葉月は、この日、一念発起しました。
　それは海浜公園のフリーマーケットに出店するということ。
　彼女の部屋はこのところ、結構大変なことになっていました。といってもいわゆる『汚部屋』というのではありません。乱雑で、狭いのです。
　その散らかり方には不思議とセンスがありました。
　日常のものはまったく散らかっていません。
　あるのは、たとえば自分で描いた絵です。大量のスケッチブックやら未完成の作品やら完成済みの絵やら、ちょっとした個展が開催できるほどありました。アナログの絵のみならず、ＰＣのハードディスクに保管した完成・未完成のデジタル絵が大量に眠っております。
　それから、自分でデザインして、ちまちまと作った服です。服作りは中学校時代からの趣味なので、これも結構、いや、かなりの数になっているのです。
　けれどもこれらの物を貯め込んでも仕方がない。
　といって、一つ一つの品に思い出もあるので捨てられない。
　ではどうしよう……と思っていた矢先、海浜公園でフリマをやるという話を聞いたので、彼女は出店申し込みをしたのでした。
　大切にしてくれる人がいるのなら、その人に譲ってあげたい。
　そう思っているから葉月は、これらの服や、服に合うアクセサリー類などを出品することにしたのでした。
　気持ちとしては、大事にしてくれる人に譲るつもりなので、金銭的な利益は最初から度外視しております。破格、ほとんどタダみたいな値段です。
　どの服も実はかなりいい素材を使っているし、葉月の裁縫技術も優れているので、まともに買えば数万円の値をつけてもいいといころを、安売りにも程がある設定にしてみました。驚愕のブロックバスタープライスです。
　訪れた城山水樹は目を丸くしていました。
「これがこの値段！？　すごいね－！」
　水樹は旧市街の古本屋の看板娘、本来ならフリマにも出店予定だったのですが、店主つまり彼女の父親が参加申請し忘れたので出店できなくなってしまったのでした。
　何のために予定を開けたのやら……とうなだれるも、いつまでもへこんでいる水樹ではありません。それならばまあ、と気を取り直して、せっかくの休みをのんびり、フリマをそぞろ歩くことですごしているのでした。
　葉月は水樹を見上げ、
「このワンピースジャケットなんて似合うと思う……」
　と、黒生地×ボルドー生地の瀟洒な服を勧めてみます。
「大人っぽいけど行動的でもあって、なにより手触りがいいじゃない。もらおうかな……ってこんなに安いの？」
「自作品だから」
「といっても限度というのが」
　と言う水樹の手に、葉月はスカートを託すようにして渡しました。
　そして言うのです。
「この子（服）には……作った時の私の想いが籠められているの。だから、大切にしてね……お願いよ」
　と。

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