フリマっ！｜リアクション

フリマっ！

　黒依アリーセの店は繁盛中、お客が途切れることがありません。
　いまもその前で、雨寺凛が目を輝かせています。
「奇遇だね！　今日はここでお店出してたんだね！」
「見つかっちゃったか……なんてね、雑貨屋修行も兼ねてるの」
　と言うアリーセは、もう在庫が尽きつつあるので、砂絵の作成作業も同時進行しているのです。その様子が目を惹くようで、アリーセのもとに立ち寄る人もいるようでした。
「オリジナルなんだ、すごーい！　どれも綺麗でいいな……♪」
　凜もなにか買うつもりでしたが、アリーセの作るものはもれなく綺麗で、素敵で、可愛いだけでなく語りかけてくるような深みがあって、なんとも迷ってしまうのです。
「私、もし大富豪とか貴族になることがあったら、アリーセちゃんのパトロンになって、専属でアクセサリー作ってもらうことにするよ♪」
「ふふ、楽しみにしてるわ」
　ぎっしり買ってもいいのだけれど、そうするとアリーセの商品を、たくさんの人に手に取ってもらう機会がなくなってしまいます。迷いに迷って凜は、赤いシュシュをひとつ買いました。
「天然石はオパールでお願いしていい？　私の誕生石でお気に入りなんだ♪」
「はい、承ります」
　と微笑みながらアリーセはシュシュを凜に手渡すのです。
「わーい、ありがとう！　大切にするね！」
　さっそくブレスレットとして、つけていくことにしましょう。
　そんな会話をしている凜とアリーセの横では、鬼河内萌が真剣そのものの表情でペンダントトップを選んでいます。
　悩む。
　悩みます。
　萌はときめく胸で悩みます。
　この場に野菜原ユウがいたら、彼はどんな童話を選択するのでしょう……？　そのことに悩んで悩んで悩みます。
　トラブルメーカー同士なので『金のがちょう』？
　それともかつてユウが言っていたように『カエルの王子様』？
　そんな悩める乙女萌に、アリーセが助言してくれました。
「なかなか会えない彼にあげるの？　なら、『ラプンツェル』はどうかな？」
「ボクが、塔に閉じ込められたラプンツェル、そしてユウくんが王子様……いいね！」
　萌のもどかしい気持ちを、ぴったり表現してくれるカップルにも思えるのです。大喜びで萌はこれを購入しました。ユウに渡す機会が、近いうちにあったらいいですね。

　次にアリーセに声をかけたのは城山水樹でした。
「このアクセは既製品？」
「いいえ、私の手作りです」
「え、手作りなんだ！　よくできてるねー、それにすごくセンスがいいよ」
　どうやらアリーセの身につけているものがまず目を引いたよう。これは見逃せないと、水樹はアリーセの展示する品々をじっくりと見ていきます。
「うーん、なかなか心惹かれるラインナップじゃない」
「ありがとうございます」
　アリーセにとっても、水樹のような美人に立ち寄ってもらえるのは嬉しいところです。
「砂絵のレジンペンダントトップなんてどうですか？」
　と薦めてみました。
　ところが水樹は肩をすくめてみせました。ちょっと、ペアものはしばらく避けたい気持ちなのです。
「あいにく、絶賛失恋中でね～」
　しばらくは恋愛に関係しそうなものからは、やや距離を置きたいところ。
「でもかわりに、これをもらうわ」
　水樹がチョイスしたのは、チャームつきのシュシュでした。
「天然石ね……あら、この石、綺麗ね……これにするわ」
　そんな彼女が選んだ石は、透き通る翠のペリドット。この宝石の石言葉は、『幸福、歓喜、運命の絆』だと言います。
　夏に派手に失恋した水樹ですが、果たして彼女に運命の絆は訪れるでしょうか……？