フリマっ！｜リアクション

フリマっ！

　尻尾ふりふり、猫が行きます。抱っこされた状態なので、尾だけふりふりして自己アピールです。この猫の名はタイガ、まだ子猫です。そして、タイガを抱えて会場をめぐるのは、八神修なのでした。
　タイガは、いえ、修は、黒依アリーセの前で足を止めました。
「黒依、店を出してたのか」
「ええ。ようこそ八神さん」
　アリーセの店はずっと繁盛していたようで、もう売れるものはあまり残っていません。アリーセは接客しつつもせっせとグッズを作っていましたが、それでも追いつかないようです。
「すごく流行ってるみたいじゃないか。もっと早く来れば良かった……！　猫や犬が使えるものがあるといいんだけど」
「そうだね。僕も、カワイイ子猫ちゃんにプレゼントをあげたいよ」
　突然修の横に、もじゃっとした頭の少年が現れました。そのもじゃり具合は、ちょっと海藻類を想起させます。そうです。ワカメさんこと鷹取洋二です。
「子猫ちゃん？　それは一体……？」
　洋二の同行者、海原茂が怪訝な顔をしました。すると洋二は妖しい目をして、
「ああそれはもちろん海原先輩のことですよ。ウフフ」
「え！？　ちょ……それ！？　俺は認めん！　認めんぞ！　というか俺はだな……そもそも俺にだって選ぶ権利が……！　うわあああー！」
　あきらかに取り乱す茂ですが、こういう姿を彼が見せるのは、洋二など一定の人物に限られるとか。
「やだなあ先輩は～。ジョークですよジョーク。ていうか動揺しすぎ～」
「なんだ良かった」
　さっと立ち直り眼鏡を直して、
「おっと、すまんな、会話の邪魔をして」
「いえ、いいんですよ。俺も両先輩の愉快なコントもといウイットに富んだ会話を聞けて光栄です」
　と、さりげなく『海原先輩の愉快な側面を見ましたよ』とアピールしておいて、修はアリーセとの会話に戻りました。
「アクセ、見ていいかな？」
「贈る相手の当てでもあるの？」
　わかってて訊いている風のアリーセですが、修は「どうかな」と流して、
「あげる機会がなくても、気になるものでね」
　と、七夜あおいの姿を思い浮かべながら、あおいに似合いそうなアクセサリーをゆっくりと探すのです。
「よう、八神」
　同じクラスの佐藤英二もやってきました。
「佐藤じゃないか？　アクセサリーに興味があったんだな」
「今日は色々と良いことがあったもんでね、ペンダントでも記念に買って帰ろうかと思って」
　どうもタイガが招き猫なのか、さらに人がやって来ました。
「あ、また会えた。出店してるんじゃないか、って思ってたんです」
　椿美咲紀です。彼女は、その黒髪を赤いシュシュで束ねていました。ポニーテールにくくった頭を横にし、シュシュをアリーセによく見えるようにして、
「これとても気に入ってます」
　にっこり、屈託のない笑みを見せるのでした。
「ありがとう。気に入ってもらえて嬉しいわ」
「今度は、ベージュのシュシュにペリドットを付けてもらいたいと思います！」
　良かった、と言ってアリーセはシュシュを取り出しました。
「ベージュがまだ残ってたわ。石は何を？」
「ベリドットです。黄緑色の意思はベージュに良く映えますね！　ベリドットは『どんな時にも明るい希望と勇気をもたらす』効果があるらしいですよ？」
　とまで一気に告げて、ふっと美咲紀は横を見ました。
「おっと！　生徒会長と鷹取先輩！」
　有名人ふたりを目撃し、美咲紀のボルテージは否応なく高まりました。
「おふたりは今日、何か素敵なものと出会えましたかぁ？」
「いや、俺は……」
　古書巡りが不調だったらしく、茂は肩を落としました。ところがこれを、
「ちょっと海原茂さん、ダメですよそんなんじゃ」
　とたしなめて洋二は、キラッと歯を光らせて言ったのでした。
「僕は出会えたよ、素敵なものに。それは椿美咲紀くんさ！」
「やだあ鷹取先輩ってばお上手！　でも先輩には海原会長という人が……」
　アハハハ、洋二と美咲紀は笑いあうのですが、茂は眼鏡を取り落としそうになるほど狼狽して、
「ちょ、ちょっと諸君！　冗談だよな！？」
　などとまたまた尋常ではない様子になるのでした。茂はなんだか涙目です。そんなに嫌なのか。
　ここに折良くというかおり悪くというか、御巫時子が立ち止まっていました。
「茂さんに、鷹取さん……」
「うわ御巫！　誤解だ。誤解だからな！」
「何がですか？」
「あ……いや、いいんだ」
　はたから見ても気の毒なくらいな茂なのです。洋二はくっくと笑って、
「まあ気にしないでくれたまえよ。さあ御巫くん、せっかくだし一緒に会場を回ろうよ」
　と、たくみに話を流すのでした。
「それは願ってもないことです」
　かくて茂、洋二、そして時子は連れだって歩き出したのです。

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