月のお散歩｜リアクション

月のお散歩

　聖華の精妙なストンプのリズムによって、夕市の身内から生命が湧き上がっていく。
　胸の内に、もう一つの太陽が宿ったようだ。

「芸術は爆発だ」そう言った芸術家は、しかしこうも加えたはずではなかったか。
「爆発は激しいばかりではない」
　静かで厳粛な、生命のカーニバル。
　それを爆発と呼ぶのなら、聖華の律動が高ぶらせられ、夕市の中であふれ出そうとしているエネルギーこそ、まさに「爆発」なのではないか。

　巻き起こる。
　巻き起こるエネルギー。

　一刻も早く、形にしなくては。
　夕市はスプレーを仕舞い込む。
　替わって、天空に強く突き出されたのは両の腕。

「……ヘッジホック？」
　異変を感じつつも、聖華はストンプをやめない。

「さあ、アートタイムだ！」
　絶叫とともに、なんと！
　夕市は生命力を絵具にして、エーテルに直接彩色を始めた！

　脈動する世界。
　夕市のパワーに反応して、まずクレーターに魚群が描かれる。
　たちまちあふれかえるエーテル。虹色に揺らめくそれは、夜光虫のように発行し、描かれた魚群をあたかも生命あるもののように見せる。

　そしてそのまま、夕市は虚空を掴み、宇宙空間そのものをカンバスと変える！
　腕の一振りで、虹色の色彩があふれ出る！
　押し当てた掌から、オーロラの光が波紋を作る！

「おお！　すげえ！」
　夕市のアートに触発され、聖華のストンプもより強く、激しくなる。
　岩を撃ち、岸壁を響かせる。月球が、楽器だ！

「うおおおおおっ！」
　雄たけびとも、歓喜の咆哮ともつかぬ声が、夕市から漏れる。
　流動し、変転する潮流。彼はそれに絶え間ない彩色を打ち込む！
　先に描いた魚群は天へと飛翔し、光の噴水に砕け、地に潰えて星屑となる。

　旋転する、旋転する、旋転する銀河！！

このページにイラストを設定する