月のお散歩｜リアクション

月のお散歩

（淫祀邪教の祭典……）
　姫音と円は、ふすま一枚隔てて行われている宴会を、恐怖の目で見つめた。

　月探査に一息ついた二人は、竹藪にたどりついた。
「姫音の勘が告げている……この先になにかいる！」
　ろっこんの加護もあってか、ほどなくかぐや姫の庵に辿り着く。
「おじいちゃん、この屋敷はなぁに？」
「地上の方……かぐやは悪くないのじゃ。すべて爺のせい……」
「へぇーかぐや姫様が住んでるんだ！」どんどん入り込む姫音と円。「姫音は怪しい者じゃないよ！　だって勇者だもん！」
　説得力皆無の言い切りに、勢いで頷く爺。
「きっとすんごい美人さんなんだね！　
　でで、悪の親玉に婚姻迫られて困ってると！」
　ずんずん廊下を歩く二人。
　嬌声のあふれる奥の部屋。あそこにいるのがかぐや。
　隙間から覗くのは、いちゃつく女子の姿。

　月世界では、女性同士の婚姻もオーケイなのだろうか？
　いや、あんな淫らな姿、悪の儀式に違いない。

「姫音にはまるっとお見通しなのだ！」高らかに宣言し、ふすまを蹴破る姫音。

「だって勇者だもん！　くれいじー！
　……えっ、違うの？」

　悪の儀式ではない。ただの宴会だ。
　かぐや姫は、婚姻を迫られていない。
　いや、かぐやは二人いる。
「月のかぐや、地球の輝夜ちゃん……」
「ちーす！　木星インテリアです！」
「あ、木星の家具屋さん」
「お前は帰れ！」

「むぅー、姫音がここにきた理由がきっとあるはずだけど……」眉間にしわを寄せていた姫音、急に開き直った。「まあいっか！」

　かぐや姫に興味深々の姫音。矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「どんな生活してるのー？　なんでそんなにモテるのー？　好きなお菓子は？　ファッションは？」

　気持ちのほころんでいたかぐやは、姫音のノリがかえって嬉しく、楽しそうに受け答えする。
　ここ千年ばかりで、一番の笑顔。
　きっとこれが、勇者姫音が月に呼ばれた一番の理由なのだ。

　かぐやの視線を刀は感じた。爺さんとばかりでなく、自分にも地上の事をきかせてほしいらしい。
　刀は一通り話した。寝子島のこと、友人のこと、剣道の修行のこと……。
（楽しんでもらえると、いいんだけど）
　ごくたわいのない、つまらない話だと思っていたが、すごく熱心に聞いてくれた。
　ふと刀は、自分の日常が、もしかしたら他人にはかけがえのないものなのかと考えた。
　……埒もない。

　一通り話し終わって、刀が、
「まあ、地上はいつもどおりさ。何も変わらんよ」
　と言うと、かぐや姫はそれが聞きたかった答えだというふうに、にっこりほほ笑んだ。

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