職業体験学習でお仕事しよう！｜リアクション

職業体験学習でお仕事しよう！

●お仕事がんばる！

「お呼びでしょうか？」
「実は……」
　広報課長に呼び出された陸は、テレビ局が職業体験学習の様子を取材しに来るので小中学生の何人かにコメントしてほしいと話す。
「私に職業体験学習に来ている生徒の中から誰かから選べ、ということでしょうか？」
「そういうことです。やってくれますね？」
「……わかりました」
　広報課長の「やってくれますね？」は「やってください」をやんわりと言っていることだとわかっている陸は、依怙贔屓にならないよう、慎重に生徒の中から誰かを選出することに。
（どうしよう……海美は出してあげたいが、他の子に示しがつかないし……）

　会議に戻った陸は、テレビ局取材のことを小中学生達に話した。
「テレビの人が来るの！？」
「そうだよ。この中の何人かに、取材の協力をしてもらいます。誰かやりたい人はいますか？」
　本当はやりたいのだが、自信がないのか、誰も挙手しない。
「困りましたね……」
　結局どうしたかというと、くじ引きで選ぶことに。当たったのは、海美と中学３年の男子生徒と小学６年生の女の子。
「おとうさん、わたし、何をすればいいの？」
「テレビの前で、寝子島の紹介をしてほしいそうだ」
「寝子島のいいところ紹介すればいいんだ。どうしよう！　テレビ出るのはじめてだからきんちょうする！」
　海美以上に緊張しているのは、運が良いのか悪いのかと複雑な心境のお兄さん、お姉さん。
「テレビ局の方が到着しました。スタンバイお願いします」
　職員が、カメラマンと女子アナを連れ広報課に来た。

「今日は、寝子島小学校と寝子島中学校が職業体験学習を行っています。職業体験をしている誰かにコメントをもらいましょうか。そこのあなた、何か一言お願いします」
　女子アナにマイク手渡され心臓がバクバクする海美だったが、おとうさんが見ているからしっかりしないと！　と気を取り直す。
「寝子島は古い神社もあるし、新しい都会もあるし、とってもいいところです！　自然も海もあって、山があって、温泉もあります！　九夜山の展望台はいい景色です！」
　娘の様子を心配そうに見る陸は、公務員の顔から父親の顔に。
「みんな、寝子島にきてください！　ときどきふしぎなことが起こるけど、たのしいところです！　たくさんの人がきてくれれれば、わたし、すっごくうれしいです！」
　インタビューを終えた海美もだが、見守っていた陸も全身の力が抜けるような感覚が。
（ああ、うちの娘は本当に天使のように可愛いな……）
　小島さん、顔、緩んでいますよ、と広報課員に突っ込まれたが、聞こえていなかった。

　その日の夕方。
　ローカルニュースで職業体験学習の中学生達の様子が紹介され、市役所以外の受け入れ先でインタビューされている何人かの生徒が映っていた。
「あ、わたしだ！」
　家族揃って見ていた陸は、海美が出たことに大喜び。
　次に出たのは、別の場所で職業体験学習をしている空歌・アヴェルスだった。
「空歌ちゃんも出てる！」
「海美は本当に可愛いよ。職業体験、お疲れ様。お仕事、大変だっただろう？」
「大丈夫！　おとうさんのお仕事のこと、すっごく良くわかったから。これからもお仕事、頑張ってね！」
「ありがとう。お母さんと海美のために、お父さん、これからも頑張るからね」
　愛娘の頭を撫で、陸は家族のために一生懸命働こうと決めた。

　父娘が和気藹々としている頃、ニュースの最後に警察官達と一緒に敬礼している結緑一色が映っていた。
「あ、エイプリルはかせ！　わたしのお友達で、少年探偵団のはかせなんだよ」
「博士というより、刑事さんみたいだね」
　テレビ越しとはいえ、海美の友達を見ることができて嬉しい陸の表情は緩んだ。
「海美……？」
　静かなのでどうしたのかな？　と様子を窺うと、仕事疲れが出たのか、海美は眠っていた。
「本当にご苦労様、海美」

このページにイラストを設定する