とある放火魔と、白昼夢の話｜リアクション

とある放火魔と、白昼夢の話

■19:00　夢から醒めたら
　ジニー・劉を夢から引き戻したのは、耳に届いた着信音だった。
　頭に残る眠気は動作を緩慢にさせるが、どうにか着信が切れる前に電話を手に取ることが出来た。ディスプレイも見ずに通話ボタンを押すと、聞き覚えのある声が眠い頭に響く。
「もしもし劉さん？　日暮です。実はちょっと調べてほしいことがあってさ」
　日暮ねむるの声はどこか硬く、その頼みが軽いものではないことを予感させた。
「どうした？　俺もちっと用事があるんで、出来れば早めに済ませてくれるとありがたいんだが」
　答える声が気だるげなのは、寝起きのせいだろう。昼寝中に見ていた夢を思い返しながら、ジニーはねむるの声に答える。
「旧市街の空き家のリストをもらえないかな」
「旧市街の空き家？　それは……もしかして、放火に関係することか？」
　つい先程まで見ていた夢の光景が蘇る。周囲の風景から察するに、あれは旧市街のはずだ。
　ジニーの問いに、ねむるは驚いてその目を見開いた。
「もしかして、劉さんも夢を見たとか？」
　間髪入れずに問い掛けを返す。旧市街の空き家と聞いて、放火と関連付けるのは彼も自分と同じ夢を見たからだろうと。
　その問い掛けに、ジニーはゆっくりと頷いた。伸ばした手で煙草のケースを掴むと、中身の減ったそれから一本取り出して唇で挟む。
「日暮もか。……分かった、用意出来次第、携帯にデータを送る」
「ありがとう。僕は今、アパートの前にいるから何か分かったら連絡します。多分、ここがあの男のアパートで間違いないと思う」
　軽く煙を吸い込むと、メンソールの清涼感が口内に広がる。眼鏡をかけると、ジニーはゆっくり息を吐いた。
「それはどの辺りだ？」
「えっと……」
　ねむるの伝えた場所から、男のアパートが大体どの辺りかを特定する。煙草を咥えたまま立ち上がると、昼寝で凝り固まっていた筋肉を解すため、軽く伸びをする。
「分かった。それじゃ、リストはちょっと待ってろ。ああ……無理に追うなよ」
「大丈夫、ちゃんと気をつけるから。それじゃ劉さん、よろしくお願いします」
　通話終了のボタンを押すと、ジニーは早速頼まれたリストを探す。茶の髪をかき上げながら、面倒なことに巻き込まれた、と億劫そうな表情を浮かべながら。