とある放火魔と、白昼夢の話｜リアクション

とある放火魔と、白昼夢の話

■22:30　追い立てられる放火魔
　吉野の焦りは増すばかりだった。ガソリンスタンドは休業中らしく、財布はいつの間にか無くなっているし、自宅に置いてあったものが何故かガラスに変わっている。
　こうも思い通りにいかない日など、今までの人生でなかったのではないか。
　だが、何故か諦めるという選択肢は存在していなかった。火をつけなければいけないと、自分の心が囁いている。
　古新聞くらいなら、そこらのゴミ捨て場で拾えば良いだろうとたかをくくっていたものの、今日に限って何故か見つからない。古紙回収の日でもないはずなのだが。
　もちろん、原因は記士郎である。記士郎が旧市街を見て周り、こまめに雑誌や古新聞を隠したので、一見してその類のゴミは無いように見える。
　しゃがみこんで探そうとすると視界の端に人影が映り、吉野はゴミを漁ることが出来なかった。人影は、時には湊面や小鳥であったり、時にはねむるや武道であったりと様々だった。ちなみにさくもは後からついていくだけである。
　時には、写真を撮っているらしい少年――タカシに邪魔された時もあった。さすがに写真に写りこんでしまうことは避けたい。
めぐり合わせが悪いとはこういうことかと、吉野は火種を探すのを諦め、早々に散歩途中に見つけた空き家に向かうことにした。
　空き家付近に人はいない。パーカーのポケットに残っていた、切れかけのライターを握り締め、吉野はふらふらと空き家に近寄っていく。
「待って。そこは空き家のはず。何をするつもりだ？」
　湊面の声が響く。吉野は、弾かれたように振り返ると、ポケットから手を出した。
　数秒送れて、小鳥達も姿を見せる。ねむると武道は、緊張した様子で吉野を見つめている。湊面と小鳥が危険に晒されるようなことがないよう、吉野がおかしな動きをしたらすぐに飛び出せるよう、足に力を込めながら。
「別に、何も……」
「ポケットの中のものは？　もしかしてマッチとか？」
　夢を思い出しつつ指摘した湊面に、吉野は驚いたような表情を見せる。湊面が一歩、吉野に近付いた。
　その時、拍子木の音と共に明るい声が響く。
「火の用心～！　火の用心～！」
　見回りに来ていた真央は、ねこったーに投稿されていた情報を見てこちらへ向かってきたらしい。吉野は、慌てたように駆け出した。
　数秒遅れて、吉野を追いかける。やはり、夢の通りになってしまったかと眉根を寄せて、湊面も駆け出した。