とある放火魔と、白昼夢の話｜リアクション

とある放火魔と、白昼夢の話

■21:00　未点火
「……別に、少し散歩に行ってるだけだ。机に座って勉強をしていると、どうしても気分転換がしたくなるから」
　いつもより早めに家を出ようとしたところで、斗南は祖父に捕まった。毎日夜中に何をしているのかと問い掛ける祖父に、今考えた言い訳を返す。
　さすがに、悪人を探して始末しているなどとは言えない。それに今日は、なんとしてでも防がなければいけない事件がある。こうしている間にも、事態は動いているのだろう。
　焦りを顔に浮かべないよう気をつけながら、釈然としない表情を浮かべる祖父に向け、言葉を重ねる。
「心配しなくても、変なことはしてないから。ちょっと散歩して、帰ってくる」
　それでも納得していない様子の祖父をなだめ、何とか家を出た。夜の空気を肺いっぱいに吸い込みながら、斗南は夢の内容を思い出す。
（確か、ペットボトルに灯油を入れてたな……）
　今の季節、灯油はまだ家庭に常備されているものではないだろう。ならば、それをどこで調達するのかと、斗南は考えを巡らせる。
（ガソリンスタンド、か……）
　歩き出す前に、携帯電話を取り出して確認をすると、武道からの連絡が来ていた。尾行している武道は、こまめに吉野の動向を送っていた。そこから、吉野の行動を推測する。一番近いガソリンスタンドの場所を思いだし、そちらへ向けて走り始めた。

■21:30　猫と放火魔
「あんなところにも猫ちゃんだー」
　逃げ出されないよう、ゆっくりと近付いてタカシは猫にレンズを向ける。フラッシュは焚かず、猫の姿を写真に収める。
　随分と人懐っこい猫は、タカシの足元に身体を摺り寄せてくる。首輪はしていないが毛並みは良く、どうやらどこかで餌をもらっているようだ。
「ごめんね、遊んであげたいんだけど……ぼく、ちょっと用事があるんだ」
　ごろごろと喉を鳴らす猫を一撫でして立ち上がると、名残惜しそうに話しかける。猫は言葉を理解しているのかいないのか、短く鳴き声を返した。
　ひらひらと手を振って、タカシは吉野の尾行を再開する。
　今日だけで溜まった写真は、後でじっくり眺めようと決めて、猫がいないかと辺りに目を光らせながら、吉野の後を追いかけた。