とある放火魔と、白昼夢の話｜リアクション

とある放火魔と、白昼夢の話

■21:00　募る焦りと放火魔
　家に着いた吉野がまっさきに目にしたものは、何故かガラスに変わった古新聞だった。出てくる時にはこのような置物はなかったはずだ。
　不審に思って室内を探すと、ガラスに変化したものがいくつも見つかった。マッチ箱やライター等、火がつくものは全てガラスに変えられている。
　明らかにおかしい。まるで、自分が放火を行おうとしているのを知られているような……吉野は、先程殴った男――ジニーの発言を思い出す。
「いや、まさかな……」
　放火を行うなど、当然ながら誰にも言っていない。ジニーは酔っ払いか何かだろうと自分の中で結論を出すと、急いで家を出た。火をつけるものと、灯油を調達しなければならない。

　吉野が家を出たのを見て、武道は口を開く。
「俺はまた追いかけてくる。　陽太くんは？」
「オレはここで、あいつを待ってようかなぁ。戻ってくるかもしれないしねぃ。もし、そのまま火つけに行きそうだったら連絡してくれれば、天懸君と一緒に駆けつけるよぅ」
「分かった！　んじゃ、幸運を祈る！」
　陽太の言葉に頷いて、武道とねむるは歩き出す。その後ろを、小鳥と湊面、それにさくもの女子三人組がついていった。
「……随分とつけてるヤツが多いみてぇだな」
　五人の後ろ姿を見て、天懸が呟く。陽太も、背中を見て小さく笑った。

「ん？　タカシ君……か？　もしかして、タカシ君も？」
　目の前で猫の写真を撮っているのは、タカシの姿。武道は、思わず話しかける。
「ぼくは、猫ちゃんの写真を撮りにきたんだよ。猫ちゃんは、夜に活動するからね」
　言いながら、今日撮った猫の写真を武道に見せる。放火のことには触れなかったのは意図的なものではない。
　吉野が角を曲がったのを見て、武道が足を速めたからだ。猫にさよならを言うと、タカシもその後を追う。武道や、吉野を尾行している数人の男女は、恐らく自分と同じ夢を見たのだろうと察しながら。
　あまり露骨になりすぎないよう、武道達よりも速度を緩めて、猫を探しているふりをしながらタカシもそっと角を曲がった。

「あの……みなさんも、あの人を追いかけているんですよね」
　吉野がゴミ捨て場の前で立ち止まっている時に、小声で小鳥が問い掛ける。
　視界には入っていたものの、なかなか声を掛ける余裕はなかった。
「みんな、同じ夢を見たってことか」
　湊面は三人――武道とねむる、さくもを見て確認をする。
「そうだよ。怖い夢見たから、放火を防ぐためにさく、がんばろうかなぁ、って。放火って、承認欲求からくるんでしょ？　だから、さくがたくさん持ち上げれば承認欲求が満たされて、放火を止めるかなって思ったんだけど」
　甘い声で答えるさくも。だが、吉野は放火を止める気はないらしい。何かを探して、ゴミ捨て場を眺めている。
「君達もなんだね。一緒に、放火を防げるようにがんばろう」
「こんだけいればきっと大丈夫☆　やってやれないことはない、ってね！」
　ねむるは頷き、武道はウインクをしてみせる。
「これだけ同じ夢を見ている人がいるんなら、本当に予知夢だったのかもしれないな」
　湊面はぽつりと呟いた。ただの夢だと思おうとしていたが、こうも人が集まり、吉野が放火に動いているのを見ると実際に起こると考える他ないだろう。
「は、がんばりましょう！　ボク、山桜桃小鳥です。よろしくお願いしま……あっ」
　自己紹介を済ませようとしたところで、小鳥の瞳に吉野がゴミを漁ろうとしている姿が見える。古雑誌などを見つけられたら厄介だ。
　ねむるは、わざと足音を立てながら吉野に近付く。足音が耳に届いたか、吉野はそそくさと去っていった。
　ほっと胸を撫で下ろしながら、五人は自己紹介を交えつつ吉野を追いかけた。