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「かっちけーご存知、ギターをだいたワタリガニです」
引き戸を勢いよく開けるなり、
新井 いたご
は底抜けに明るい声を張ってウィンクする。
「なーんてね」
生来の明るさにここを訪れる前に昔の友人と共に飲んでいた酒の力も掛け算で、絶好調も絶好調ないたごに、けれど応える客はひとりもいない。
空っぽのカウンター席の向こう、奥で皿を洗っていた女将と焼き台の火を見ていた店員が挨拶の声を上げるのも忘れて目を丸くしている。
店内の沈黙に加え、店に近づいた途端に感じた晩秋の寒さが身にしみた。いたごは思わず半袖の両肩を抱いて身震いする。背中を伝う寒さを振り払おうとその場で一度跳ねてみる。陸に居る時は肌身離さず抱えて歩くアコースティックギターだけが微かな音たてて鳴る。相棒が笑ってくれた気がして、いたごは酔いの残る頬を緩める。
「いらっしゃい、魚新さん」
「そうね、いらっしゃい」
「かっちけねぇ、かっちけねぇ、あいてて良かった」
気を取り直して仕入先の魚屋でもある常連客を迎える女将と店員に、いたごは何事も無かったかのように笑顔を全開にする。
昔の友人と飲んだはいいが、ご機嫌で夜道を歩いていたところで思いがけない寒さに酔いが半ばも吹き飛んでしまった。なんだか飲み足りないと思ってしまったところに折り良くハナの赤提灯、もう少し飲もうと決めればもうたまらなくなって店に飛び込んで、
「かけつけ一杯、ってね。まずはビールかな」
真中の席に陣取り、お通しの里芋ピリ辛揚げをつまみに今日何杯目かのビールをあおる。酒臭い鼻歌交じり、ギターを抱えて爪弾いて、
「おや、今晩は」
鴨居に頭をぶつけぬよう、長身を僅かに屈めて入ってきた壮年男性と目が合った。彫りの深い顔立ちに温和な笑みを浮かべ、男性は頭に被っていた制帽のつばを白手袋の手でつまんで脱ぐ。
「つい先日まで夏だったのに今日は随分と冷え込むねぇ」
店内の誰に言うともなく言いながら手袋も外し、オールバックの色素の薄い茶髪を一撫でして、背広の腰を幾度か叩く。
「もしかしてこれも不可思議な事件の前触れ、かな? 考えすぎか」
「お久しぶり。そうねえ、最近何だか多いわねえ」
「お元気そうで何より、女将さん」
席を勧めつつお絞りを置く女将に愛想よく笑みかけ、
円城 徹
は長距離のお客を乗せて少し疲れた身体を椅子に休める。
前にこの店に来たのは何時頃だったか。時たま忘れた頃に顔を覗かせるだけの、常連客とも言えない客の顔も覚えていてくれたのかと最早地顔とも言えそうな笑みを深くする。
「女将のオススメ料理が食べたいねぇ。焼き鳥も適当に見繕ってもらえるかな」
「飲み物は?」
「日本酒をぬる燗で」
「お、いいねえぬる燗」
先客がギターの弦を軽く弾き、楽しげにビールを飲む。
「お客さん東京の人? 今日はどこか宿取ってるの?」
人懐っこく問われ、一見アメリカ人にも見える徹は朗らかに首を横に振る。
「いやいや、僕は寝子島出身。タクシー運転手の円城です」
「ありゃ、これはご丁寧に。旧市街で魚屋やってる新井です」
二人揃って頭を下げ合うその内に、折り良く徹にぬる燗が届く。これを縁にとビールジョッキとコップ酒で乾杯を交わす。
(人の出会いは一期一会、)
タクシー運転手をやっているからか、徹にその思いは一際強い。のんびりと居酒屋で過ごしているうちに、魚屋だと言う彼も含め、今日はどんな人に出会えるだろう。
(楽しみだねぇ)
「そうだ、ここのオススメ」
お通しの里芋をつまむタクシードライバーに、ギターも弾ける魚屋は弦を静かに爪弾きつつ話しかける。
「焼き鳥も美味いけど、魚も美味いよ。何たってうちが入れた魚だし、女将はべっぴんだしね」
「あら、お上手」
奥で女将が肩をすくめる。
「あ、そりゃ関係ねぇか」
「はいはい、それじゃあ円城さん、魚新さんに今朝入れてもらった秋刀魚でなめろうでもお作りしましょうか」
常連客のいたごと女将との軽快な掛け合いに耳を傾け、徹は瞳を細めて頷く。
「あ、それボクも頂けるかな。あとアユ。あれうまそうだった」
「そうね、立派な鮎。塩焼きにしましょう」
「女将の包丁と愛情が入りゃ絶品だろ」
冗談とも本気とも取れぬ声音で言いつつ、いたごはギターを掻き鳴らす。興味深げな瞳で、静かに耳を傾けて聞き役に回る徹のため、
「うちの店はな」
歌うように語るは自身の店への道案内。
「この店出て右へ曲がって、参道ぞいにいくんだよ」
で、とギターの伴奏を入れる。
「右手に見えますのは綺麗な紅葉、これをみながらちんとんしゃんと歩いていくとだな」
「目に見えるようだねぇ」
話の腰を折らぬ上手いタイミングで相槌を打つ徹に笑いかけて、あ、とぴしゃりと額を打つ。
「ごめんよ、今は夜だから見えねぇよ」
仕切り直してビールを一口。手を伸ばし、徹のコップにぬる燗をお酌。女将特製の秋刀魚のなめろうが二人に、店員厳選焼き鳥盛り合わせが徹に届けば、仕切り直しは無事に完了。
「ちくわくん大明神なんて小さな社が見えてくっから」
いたごは声も高らかに道案内を歌う。
「そこでぱぱぱんと手あわせてもらってだな、その裏っかわがうちの店だ」
タクシー運転手なら観光客もたくさん乗せるだろ、といたごはCMタレントばりの爽やかな笑顔を浮かべる。
「いい土産になる干物にちくわもあるからぜひよっとくれ」
いいねぇ、と頷く徹の相槌に、いたごはギターの音量を絞る。深夜の外に音が洩れぬよう、小さく小さく弦を弾く。
「こんな時間にすみません、ちょいと失礼」
引き戸が開き、黒髪の青年が遠慮深げにちょこんと顔を覗かせる。もしや煩かったかなとギターの手を止めるいたごに、店に入ってきた
伊予 祐
は琥珀の眼に人の好い笑みを滲ませた。
「月の良い晩だからって仕事着のまま外にでるもんじゃないっすね」
筋肉質に締まった身に纏う仕立ての良い執事服の袖をつまみ、席と熱いお絞りを勧める女将に愛想よくお辞儀する。勧められるまま席に着き、
「冷え込んできて大変だったぜ」
ぼやきながら、しつこく腕にしがみつく外の冷気を白手袋の掌で払う。
「あ、熱燗二合お願いしまーす、こんな日は酒を飲むに限る!」
店員に元気よく注文し、脱いだ手袋をスラックスのポケットに大雑把に突っ込む。冷たくなった指先を熱いお絞りで温めようとして、
「うわ熱っつ、きもっちいー」
凍えた体温には熱すぎて感じるお絞りをお手玉する。
隣で穏かに笑む徹と、控えめなギターの音を奏でるいたごにちらりとはにかんだ笑みを向ける。
「寒い日はやっぱ温かいものだね」
「そうだねぇ」
祐に同意して頷いて、徹はふと格子戸の向こうに視線を伸ばす。聞いているだけでも凍えそうな音を立てて駆け抜ける風に揺れる赤提灯の下、暗い人影がゆらり揺らぐ。
音もなく薄く開いた戸の向こう、北風に灰色の髪を乱した恐ろしく顔色の悪い青年が静寂を猫背の身に負って立つ。
「お、おう」
徹の視線を何気なく追って、戸口に幽霊のように佇む青年の姿を見、祐が思わず眼を丸くする。
「あら、浅葱さん」
女将に声を掛けられ、
浅葱 あやめ
は風の中で捲っていた手帳を閉じた。雪雲の色した髪に隠れがちな眼鏡の奥の眼を憂鬱気に瞬かせる。スルリと戸の内側に身を滑り込ませ、閉店間際かと思えば案外客の居る店内に向け小さく会釈する。一番隅の席に静かに腰を下ろす。
久々に、飲みたい気分だった。
(そんなに酔える体質でもないんですけど……)
「まぁ……うん。焼酎を。お湯割りで……」
誰とも眼を合わさず、低く呟くような声で注文だけを通す。
「何かお腹に入れないと」
これだけじゃ足りないわよ、と女将が旧市街にある眼鏡屋の二代目にお節介を焼く。
「あの、……じゃあ、おつまみも。適当に」
店員がカウンター越しに差し出す陶器の焼酎カップを受け取り、視線を逸らしたまま小さく頭を下げる。
「お祖父さまはお元気?」
「元気に隠居生活中、です……」
「お孫さんにお店継いで貰えれば安泰よねえ」
「そう、でしょうか……」
女将の世間話に覇気なく応じ、あやめは熱い焼酎を口に含む。店の誰とも視線を合わさず言葉も少なく、湯気たてるお湯割り焼酎の水面だけを見つめる。
(安泰、なのかなぁ)
飲みたい気分に陥ってしまったのは、その不安もひとつにある。否、そもそもがそこに起因していると言ってもいい。
口内に香りを残して、焼酎の酒精が喉を焼いて通り過ぎる。
(彼には全く、問題なんてない)
酒の香の息を吐き出し、眉根に陰気な皺を刻む。
手帳を開く。店に新しく入ったバイトの給料日が間違いなく迫っているのをもう一度確かめる。
バイトの彼はよくやってくれている。問題があるとするならば、それは自分自身が彼に馴染めていないということ。
隠居した祖父が顔を出してくれるとは言え、眼鏡を仕立てるために工房に籠もれば店舗は無人になる。それでも最近まで人を雇わず、頑ななまでに一人で店を切り盛りしてきた。
店を潰すかもしれないと危惧しながらも人を雇えなかったのは、
(僕が、悪い)
新しく人と関わるのがどうしても怖かった。
思い悩んだ挙句、いっそ飼い猫のハシバミを店番に仕立て上げようかとまで考えていたところに、彼がやってきた。来てくれた。
こんな自分に、関わりを持ってくれた。
(……そうだ)
お湯割りのカップを両手で包む。夜気に冷えた指先が熱に触れ、痺れるように温まってゆく。
(僕のごく狭い交友関係に、人が増えたのは久しぶり)
そのことに思い至ってしまえば、尚更に怖くなった。
「……きらわれたくないなぁ」
強い思いは、知らず声になっていた。焼酎の水面に落ちた己の思いがけぬ呟き声に、あやめは胸を突かれる。
「悩み事かい?」
不意に掛けられた柔らかに響く渋い声にぎくりとする。恐る恐る怖じた目を上げる。呟きを聞きとがめられてしまっただろうか。
見れば、ひとつ向こうの席の壮年男性がこちらに顔を向けている。纏う雰囲気と掛けてきた声音は柔和に感じたけれど、どうなのだろう。隅で皆の邪魔にならないようにしていたつもりでも、目障りだったかもしれない。
「いえ、……」
「嫌われるのは怖いよねぇ」
のんびりと世間話をするかのように、徹は笑う。酒を傾ける。
「そう、です。嫌われるのは、……怖い」
無理に話を聞き出そうとはせず、ただ聞き役に徹してくれる穏かな雰囲気の男性に、人見知りしながらもあやめは零す。言葉に紡げば、胸の内で絡まっていた思いが僅かに解ける気がした。
「失望されるのは、怖い、です」
(僕は彼の、ちゃんとした『雇い主』になれるんだろうか)
バイトの彼は、はきはきとして物怖じしない。誰とでも明るく接することが出来る。関わりを持つことが出来る。
(僕の方が見習いたいくらいなんだけど)
「……駄目かなぁ。駄目だなぁ僕」
「そう思ってしまうのは辛いねぇ」
鬱々と呻くあやめの傍ら、徹は身軽に席を移す。
どこまでも笑みを絶やさず、どこまでも親身になって愚痴に耳を傾けてくれる背広の男性に、考えることに疲れたあやめはそろりと眼鏡越しの視線を向ける。雰囲気と身形からして、接客業だろうか。
(人に教えられる、って言えそうなのはせめて眼鏡士の技術くらいだけど、彼は眼鏡屋を志してる訳でもないし)
「あの。……すみません、こんな席でこんな話」
「居酒屋で初めて会ったからこそ話せることもあるだろうから」
キラリと輝いて見えるくらいの笑顔を向けられ、あやめは瞳を伏せる。初対面の人間と気安く話すことの出来る技術は、どこかに売っていたりしないだろうか。
(例えば、あの町)
前に迷い込んだ夕暮れの町を思い出す。そんな技術が手に入るなら。今度こそ己のこの恋心を全て売り払えるなら。
とりとめなく考えて、体が萎むほどの息を吐き出す。短く呻く。
「……やっぱり酔ったかなぁ」
寒空の下から居酒屋に入ってきた時と変わらぬ、紙のように白い頬のままに言い、店員に空のコップを伸ばす。もう少し濃い目で、とお湯割りのお代わりを注文する。
「焼酎かぁ」
「……あんまり飲んだ気になれなくて」
二杯目の焼酎を受け取り、酒に香りの湯気を吸い込む。兎も角、とあやめは腹を決める。唇を引き結び、頷く。兎も角も、彼はバイト。
(……バイトなんだし、人生経験を積んでもらうつもりで)
それに彼はまだまだ若い。自分との出会いが一生を決めるわけでもない。
(こんな僕に当たったのも、経験ってことに、……)
してもらえないかなぁ。浮上しようとしては沈み、足掻こうとしてはまた沈み、しまいには焼酎カップを抱えてカウンターに突っ伏す。下手すれば息子の年頃の青年の背中を、幾つもの人生を運んできたタクシードライバーは励ますように無言で叩く。
「ありがとう、ございます」
あやめは重いものを背負ったかのような猫背の背中をどうにかもたげる。
バイトの彼に、せめて幾許かなりでも経験を積んでもらえるように。
(僕も、精一杯真摯に、眼鏡士の仕事について教えよう)
仕事の為だけでなく、彼の人生の糧にしてもらうために。
「うん」
青年の瞳に僅かなり光が灯ったことを確かめ、徹は嬉しげに頷く。愚痴を聞くのも年上の仕事だよね、とぬる燗の酒を口に含む。
酒の席の人生相談の邪魔にならないようにギターの弦を爪弾くいたごの前、
「鮎の塩焼き、お待たせしました」
ぱちぱちと脂をはぜさせる焼き立てほくほくの鮎が届く。
「お、待ってました!」
思わずギターを掻き鳴らし、いたごはギターを脇に箸を手に取る。魚屋ならではの慣れた手つきで鮎の身を綺麗に解す。
「酒には魚だよね」
舌の上でほろりと解ける鮎の味と香りを楽しみ、ビールを喉に流す。
「飲み足りなくてさ、でも帰っても今日はあてがないんだ」
「そうなんすか」
いつかのハナで共に杯を重ねた顔見知りの祐といたごは気安い笑みを交わす。
「ボクが出かける日は夕飯のメニューが子供向けになるからさ」
ハンバーグにグラタンとかオムライスかな、と呟いて、ビールを一口。
「嫁も洋食好きだからたまにこうやってボクが遅くまで出かけてやるのも甲斐性ってもんだなこれが」
「そうやって夜遊びを正当化して」
母親の口調で女将に叱られ、いたごは悪戯小僧の顔で肩を竦める。
「するどい女将にはかなわねぇなー」
「嫁さん、か」
いいっすねえ、と祐はほんの少し眉を曇らせる。寂しさを振り払うようにぐいぐいと飲み進める。
「帰っても誰もいないから、寝るだけなんすけど、なんだか味気ないなって最近思いまして」
ぽつり零すと、うっかり止まらなくなった。
「これから寒くなってくるってのに、いつまで一人で煎餅布団使ってんだってね」
おどけて笑うその裏で、
(……温もり欲しいな)
心底からそう思う。
例えば、家族でも恋人でも、誰か居れば暖かくなるのだろうか。
(しばらく一人だから忘れちまったや)
誰かと暮らすことはありがたいことなのだと、最近は妙に胸に沁みて思う。
勿論、島の人や友達には世話になっている。あったかい人が大勢いるのも知っている。それでも、ふっと胸の奥が切なくなるときがある。
いつか離れる時がくるかもしれない。
そうなればまた、――また、
(独りで歩いていかにゃならねえ)
人のぬくもりが欲しい、寂しい、そう思ってしまうときがないわけではない。
知らず伏せていた琥珀の眼に気付き、祐は気を取り直すべくわざと派手に笑う。酒を干す。
「……でもこうやって自由に酒飲めるのは、今のうちですよね」
「そうだね、独身のうちだけだよ」
妻子持ちのいたごが実体験の重みで頷く。
ですよね、と祐は決意も新たに頷き返す。
「俺、二十代のうちに結婚したいって思ってるんです。まあ彼女いないんですけどね!」
言って酒を含めば、脳裏を妄想が駆け巡る。
こんな寒い日は家族の待つあったかい家にさっさと帰って、恋女房によく似た子供達にお帰りなさいと迎えられて、ただいまを言おう。子供を抱きしめ、恋女房を抱きしめ、みんなで夕ご飯を――
「別に悲しくないぜ!」
悲しくなって首を横に振る。妄想を振り払い、想うは現実。
「気になる人はいるんすけど」
長い黒髪に可憐な容姿の、その癖活発でどこか危なっかしいその人を想う。酒の熱とも違う熱が頬に上る。
「いい雰囲気になってもそこから一歩先へ進むのは難しくて」
「押し倒したいの?」
いたごの前におかわりのビールを置きに来た女将が大真面目な顔で混ぜっ返す。
「あっ違う違う、からだの関係じゃないですヨ!?」
口に含んだ酒に思わず噎せつつ、祐は慌てる。酒が回るほどに激しく首を横に振る。一気に頬が赤くなる。
「こころの問題!」
「女将にゃかなわねぇなー」
「ほんと、かなわねえっす」
笑ういたごの隣、祐は頭を抱える。カウンターに頬杖をつき、ちょっと不貞腐れた顔で熱い頬を誤魔化す。
「月が綺麗ですねってさらりと言えれば、また変わるんかな」
「君が隣にいるから、とでも言えれば最高だねぇ」
あやめと並んで飲んでいた徹がさり気なく付け足す。
「うわいいっすねそれ! 君が、……きみ、が、……」
心を伝えたいその人の顔を思い浮かべて口に出して、
「……臆病だもんで簡単にゃいかねんだけどさ」
頭から湯気が出そうなほどに照れてしまった。もう一度頭を抱えて呻く。人生の先輩であり、昔はモテたと自称する徹と妻子持ちのいたごが温かな笑い声を店内に響かせる。
「うーん分からん!」
笑い声に助けられ、祐は顔を上げる。つられて笑う。笑いながら、
(分からないから求めるのかねえ)
ふと、そう思う。
「ま、今日は飲もっと!」
己が恋の悩みをカラリと笑い飛ばし、祐は猪口になみなみと手酌した酒を一息に飲み干す。続けて注ごうとして銚子が空になっていることに気付き、
「すみませーん、おかわりください!」
「……あの。僕も……」
ほろ酔いの晴れ晴れとした声を張る祐から離れた店の端、あやめがもう幾杯目かも知れない焼酎お湯割りを求める。
「お、いけるクチ? ってかほんとに飲んでる?」
「そのはずですが……」
湯か茶のように酒を飲みながら、殆ど顔色の変わらないあやめをカウンターに身を乗り出すようにして覗き込み、祐が赤い目元を親しげに笑ませる。
「さ、僕はそろそろお暇しようか」
徹が僅かも乱れぬ仕種で立ち上がる。己が酒量は弁えている。これ以上飲酒してしまえば、自分の足で帰る事が怪しくなる。そうなれば明日の仕事にも差し障る。
「ありがとう、ごちそうさま」
支払いを済ませ、徹は酒席を共にした青年達に軽く手を振る。
「お疲れ様、楽しかった」
「……ありがとうございました」
「おつかれっす」
「そんじゃ、ワタリガニのララバイでもひとつ」
店を出る徹の背中に自作の歌を捧げて後、いたごは女将に土産用の焼き鳥四人分を頼む。
ギターを爪弾きながら残りの酒を片付ける。目眩にも似た酔いに軽く瞳を伏せて、昔飼っていた犬のモグの幻を見た、気がした。
(おうモグ、そろそろうち帰るぞ)
いたごは淡く笑む。家族の待つ家に、今日も帰ろう。
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日常
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15人
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15人
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シナリオガイド公開日
2014年11月12日
参加申し込みの期限
2014年11月19日 11時00分
アクション投稿の期限
2014年11月19日 11時00分
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