あのぬいぐるみ、どこいった？｜リアクション

あのぬいぐるみ、どこいった？

「彩葉さん。これなんかどうでしょうか。そのものずばりなんですが」
　智瑜が持ってきた本を彩葉も覗き込む。
「うわ、懐かしいね。児童文学では有名なほうだし、たしかにこれのことかも」

『くたびれた耳のうさぎは青い光の注ぐ聖堂で古い本を捲り、そこに書かれている古い予言を唱えました。古の予言は、時を経たことで祈りの言葉ともなっていたのです。
「一万回のぼって、一万回沈んだ月の向こうから、一度きりの光がみえる。それは声なきものに声を与え、信じるものを月の園に導くだろう」
うさぎはその光をみるのが夢でした。そしてその光に導かれ、月の園へ行きたいと思っていたのです。自分を作ってくれた優しい手の女の人が憧れていた場所へ』

『青い目のうさぎシリーズ～月の園と予言の書～』と書かれた題名や表紙に書かれた兎の絵をなぞると、智瑜はうーたんを思い出し少しだけ切なくなった。
　本を眺めるふたりの間に、セレッソは息をきらして駆け込んだ。
「これ、みてほしいノ！　シスターから借りてきたノ！」
　そう云って出された本は、「Prophecy　Book」という題名の写真集だ。
　広げられたページに移っていたのは、聖堂にいる精巧に作られた白い兎のぬいぐるみが本物の兎に向かって祈りを捧げているところだ。そしてその構図は、今呼んだ物語とよく似ている。
「写真家の言葉が載ってます。……なるほど、この写真集は色んな物語の『予言の書』をコンセプトにつくられているみたいです」
「ソウ！　そしてもっと大事なのはココナノ！　小さくて読みにくいんだけどごめんネ」
　セレッソが指さした場所に書いてある文を、彩葉が目で追う。
「なになに？　この写真の元になっている物語に出てくる光は実在するようだ。月の向こうから一度きり地球に近づく彗星が秋口に見られるらしい、撮影がもう少し遅ければ……」
　三人は急いで本の奥付をみた。出版年は半年前だ。
「そう云えば今日、流星群が見えるってやってました。大きいほうき星が近づいたからって、テレビで」
「あ、それ私も見たよ」
「急ぎまショウ！」
　図書館であるにも関わらず、三人はダッシュで外に出ると、一目散に夜見山を目指した。

　猫の後を追い、一足先に夜見山に到着していた瑠奈と瑠樹はぞくぞく集まるぬいぐるみを眺めていた。
「あ、ぽちみっけ」
　自分の見えない所でひょこひょこ動いている犬のぬいぐるみが愛らしく、瑠奈はつい目で追ってしまう。
「オレのラピはまだかなあ。似てる子ならいっぱいいるんだけど」
　自分のぬいぐるみがみつかったのにもかかわらず隠れて様子をうかがっている瑠奈を、瑠樹は不思議そうにみつめた。
「ねえ、夢宮お姉ちゃんはどうしてずっと後を追ってきたのぉ？　ふつうならさっきのオレみたいに駆けよっちゃうと思うなあ」
　瑠奈は少しだけ考えると、何かを思い出したようにはにかんだ。
「あたしはさ、不思議な現象とか、おかしな事とか、危害さえなければそのままありのまま受け入れことにしてるの。ぬいぐるみたちだってきっとやりたいことがあるからこうやって集まってるわけでしょ。話しかけたら、それは邪魔しちゃうってことだから」
「そっかぁ。でも……」
　瑠樹がざわめくぬいぐるみの一角に目を移した。瑠奈も別の方から聞こえてきた声に意識をやる。
「あらら。あたし、ちょっと出てくるね」
「うん。オレはラピを探してくるねぇ」