あのぬいぐるみ、どこいった？｜リアクション

あのぬいぐるみ、どこいった？

　言葉を渋るうさぎの代わりに出てきたのは彩葉のあみぐるみ、犬のオマメ二号だ。
「彩葉ちゃん、ここまで来てくれてありがとうね。でも、ぼくみたいに、愛されているぬいぐるみばかりじゃないのが事実なんだ」
　悲しげに顔を寄せるオマメ二号を抱き上げ撫でてやると、うさぎが深いため息をつく。
「……すっかり忘れられたもの、理不尽に扱われているもの。かくいう私も文学館のガラスケースの中でじっとすることを強いられていました。その気持ちは分からなくもありません。ですが私は、主人に会いたい。私を物語の登場人物にしてくれた主人に」
「き、気持ち分かるよっ」
　ぴいぴい鳴き始めたのはハムスターだ。
「ペット達と遊ぶのは好きだよ。だけど、狩りの練習で噛まれるのは怖いんだ。ガブリとやられると気持ちがキューッってなるんだ。それでもがんばってるのに、褒められるのはいっつもペットのほうだしさっ」
「なるほど。それがハムの葛藤だったのか。そうみたいだが、ご主人」
　無花果の手から修の手に渡ったハムスターは、なおもぴいぴいと鳴いている。
「ごめんな。確かに、お前たちの気持ちを考えたことはなかった。嫌ならもうしないよ」
「嫌なわけじゃないよ。たまに、ネジお巻くときなんかに、ぼくのことも撫でてくれたらいいなって」
「ああ。約束する。首が痛くないようにマフラーもやろう」
「ぼくもなでて！」
　カピバラもいつの間にか修の足元でうごうごしている。修は毛に絡まった木の葉をとって優しく撫でてやる。その光景を羨ましげに眺めているうさぎに、瑠奈が声をかける。
「ご主人さまのこと、すきだったんだね」
「はい。とても優しい方でした」
　照れたように耳を曲げたうさぎの後ろから、アリスのうさぎが走ってくる。
「ねえねえねえ！　今星が流れたよ。見逃しちゃうよ！」
「うーたん！」
　原作さながらに走ってくるうーたんを抱きとめ、智瑜はぎゅっと頭を胸に押しつけた。
「またなくしちゃったのかと思って……」
「もうどこにもいかないよ」
　感動の再会をこれでもかとみてきた真央は額に皺を寄せて考えていたが、やがてぽん、と手を叩いた。
「身寄りのないぬいぐるみは真央ちゃんと一緒に病院にいくのだ、きちんとクリーニングしてもらえばきっと子供たちとも遊んでもらえるのだ！」
　その声に、ぬいぐるみたちもざわついた。修も頷き、うさぎに歩み寄る。
「あななたたちが主人を求めているように、子供たちもまた、あなたたちを求めています。もし、まだ可愛がって欲しいという気持ちがあるなら、俺たちと一緒に戻りませんか」
　うさぎは静かに頷くと、ぬいぐるみたちへ向かって声を張り上げた。
「皆さん。ここに心優しいぬいぐるみの持ち主たちがいます。月の園に向かおうとしていたものは、今一度自分の行く先を考え直してもいいかもしれません」
「おお、ありがとうなのだ！」
　真央はうさぎをぎゅっと抱きしめると、そのまま持ち帰ろうとした。うさぎはそれをやんわりと断る。
「……すみません。私自身は、光の導きに従おうと思っています。やはり私は、主人が忘れられない。月の園であの人が待っているような気がするから」
　月の園へ行こうとしていたぬいぐるみたちが、わらわらと9人の元に集まってくる。その波に逆らうようにして、うさぎは流れ星の降る方へ歩いていった。
「ちょ、ちょっと待ってヨ！」
　追い駆けようとするセレッソを瑠奈がひきとめる。
「見送ってあげよう。ご主人さまと会えるように」
「……ウン」
　智瑜と彩葉は顔を見合わせ、静かに頷いた。あの本の物語の作者はだいぶ前に亡くなっていることを、ふたりは図書館で知っていたのだ。

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