月とうさぎとメイドと喫茶と。｜リアクション

月とうさぎとメイドと喫茶と。

　『ねこのて』の前の看板が、「OPEN」から「CLOSED」に変わる。
「今日はとっても大好評でしたね」
　万里は厨房でお湯を沸かしながら、従業員たちに言った。
　従業員たちはさすがに疲れが見える表情だが、同時に満ち足りた顔をしている。
「良かったです、みんな楽しそうな顔でしたね」
　冴来が言う。
　朱蘭がそんな冴来の肩を叩きながら、
「いや～君はよく頑張った。お疲れ様。これを飲みなさい」
　彼女が差し出した水を、冴来は受け取り、
「ありがとう……」
　口をつける。
　その瞬間、違和感に気づく。
「って、これろっこん水じゃない」
「約束だろ？」
　詰め寄る朱蘭の顔はすでに赤い。
「うう……」
　そんな二人に、万里が声をかける。
「さあ、お茶が入りますよ。ケーキもありますからね」
「あっ、ありがとうございます！」
　渡りに船と、万里の方へ駆けていく冴来。
「ちぇっ」
　と、朱蘭。

　すでに片付けの済んだ客席には、他の従業員たちが勢揃いしている。
　勇が各テーブルに紅茶を注いで回っている。
「店長代理が用意してくださった茶葉です」
「とっておきです。今日頑張ってくれたみなさんのために」
　万里の言葉に真央が、
「やったー！　万里ちゃんセンパイのとっておきは絶対おいしいのだ、真央ちゃんは知ってるのだ」
「そうね、楽しみ」
　市子が頷く。
「あ、スコーンの焼ける匂いもしてきましたね！」
優芽も歓声を上げる。その膝の上には黒猫の橘がいる。
「あら、すっかり店長さんに好かれたようね」
　万里の言葉に、優芽は頬をかく。
「へへへ……良かったです」
「店長代理、ありがとうございます！　仕事終わりにこんな幸運が待ってるなんて……私、このバイトにして良かったです……！」
　感涙する璃亜に、月は、
「いくらなんでも大げさでしょう」
　と言ってみせるが、表情からお菓子とお茶への期待が隠せない。
「まずはお茶からどうぞ」
　万里にすすめられるまま、みんなはお茶に口をつける。
「おいしい、香りがすごくいいですね」
　感嘆する勇に、万里はにっこり笑って、
「お茶の取引先からサンプルで少量だけ入荷した特別なお茶ですよ」
「ほんとにおいしいですね」
　そう言った冴来に朱蘭が、
「そこで水もどうぞ」
「あ、ありがとう」
　渡された水を冴来は飲んでしまう。
「へへへ、酔っ払った？」
　朱蘭に問われて、冴来は、
「は、はにゃ～」
　と、普段とはまるで違う様子でふらふらと朱蘭にもたれかかる。
「あらら……こいつこんなに弱かったのか……」
「えっ、大丈夫です？　ちゃんと帰れるんですか？」
　心配する璃亜に、朱蘭は、
「まあいざとなったらあたしが送り届けるよ。責任を持ってな」
　そう言う彼女もまたろっこん水によって少しろれつが回らなくなっており、本当に大丈夫かな、という表情で璃亜は首を傾げる。
　やがて、万里が厨房へゆっくりと入っていき、
「さあ、どうぞ」
　スコーンを並べた皿を手に戻ってくる。
　みんなは歓声を上げる。
　万里は笑顔で、
「今日も一日、お疲れ様でした」
　みんなはそれぞれ配られたスコーンにかじりつく。
「いい一日でした」
　と、月は紅茶の香りを楽しみながら、万里に言う。それから、
「店長代理、よろしければ今後もこの店で働かせていただけませんか？」
「ええ、もちろん」
　と、万里は笑顔。
　いつしか笑い声が店内に満ちて、万里は窓から空を見上げる。
　夜空には綺麗な三日月。
「さて、明日も頑張らなくちゃ」
　そうつぶやいた店長代理の傍らで、店長の橘もにゃあと鳴いた。

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あとがき

担当マスター：豪遊亭平朝
ファンレターはマスターページから！

マスターの豪遊亭平朝です。
プレイヤーの皆様、シナリオに参加いただきありがとうございました。
今回のシナリオではメイド喫茶の一日ということで、『ねこのて』従業員の皆さんにそれぞれメニューや接客のアイデアを持ち寄っていただき、本当にありがとうございました。
お客さんサイドの方々もそれぞれ個性的なメイド喫茶の楽しみ方で、各キャラをどう動かしていくか悩みつつも楽しい執筆でした。
また機会がありましたらよろしくお願いします。
それでは。

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