撮影隊がやって来た！｜リアクション

撮影隊がやって来た！

【１１】クランクアップ
　撮影は、全て終了した。
　俳優たちは一足先に東京へと戻って行き、残ったスタッフらは撤収作業にかかる。
　真央と士、綾花、夏朝、市子の五人は、神社の方の撤収作業を命じられ、残りの真理、博美、るちる、刀、修は、旧市街の一画に借りた空家の方の撤収作業を命じられた。
　やがて。
　すっかり日が落ちて暗くなったころ。
「君たち、本当によく働いてくれたね。お疲れ様でした」
　寝子島神社の石段の前に整列したバイトたちに、島崎が言った。
「君たちのおかげで、本当に助かったよ」
「るちるさ……いえ、私には、いい勉強になりました。プロの世界は、想像以上に大変なんだってわかりました」
　小さくかぶりをふって言ったのは、るちるだ。
「『鳴神ひよりシリーズ』の撮影のお手伝いができて、すっごくうれしかったです！」
　相変わらずテンション高く言ったのは、真理である。
　綾花は口には出さなかったが、二日目の撮影の合間に、ひよりと良治にもらったサインと一緒に写した写真を、大切にしようと改めて胸の中で思った。
　そんな彼らに、再度「ご苦労様だったね」と声をかけ、島崎はロケバスへと乗り込む。
　やがてロケバスは動き出し、撮影隊は寝子島を去って行った。

　数日後。
　寝子高の新聞には、美咲紀のエキストラ体験記が写真入りで掲載された。むろん、自分の体験ばかりではなく、スタッフにリサーチした内容なども盛り込んである。
「美咲紀さんの記事、読みました。とてもよくまとまっていて、読みやすかったです」
　たまたま校内で出会った智瑜に言われ、美咲紀はうれしそうに頬を染めた。
「ありがとうなのです。そう言われると、すごくうれしいのです」
　一方、奈々美の方も今回の取材の成果をきっちり、記事に仕上げていた。
「監督のインタビューが、すごく細かいです。……毎日、現場に通っていたのは、伊達じゃないですね」
「ニャハハッ！　当然や。うちは、きっちりやるとこはやる女やさかいな」
　新聞を読んだるちるに言われ、彼女は胸を張る。
　そのころ修は、撮影隊を写した動画と写真の選別と、撮影の顛末についてのテキスト作成に追われていた。
　というのも、役場のサイトで今回の撮影について、町民からの写真や動画、テキストの投稿を呼びかける特設ページが作られたからだ。彼としては、せっかく撮ったものを眠らせておくつもりはない。そこで、テキストも付けて、投稿することにしたのだ。
「その前に、関映に送るビデオもコピーしておかないとな」
　にわかに忙しくなって、修は呟いた。
　そんなある日。
「修ちゃん、見て見てなのだ！　オリジナルグッズが送られて来たのだ！」
　新聞部の部室で投稿用のテキスト作りをしている修に、真央が差し出したのは、『木曜サスペンス劇場』のロゴが入った、小さなパイプのストラップとハンドタオルだった。ハンドタオルにも、同じロゴとパイプがししゅうされている。
「これは、エキストラをやった人たちがもらえるものじゃないのか？」
　尋ねる修に真央は、事情を説明した。
「……たしかに、希少価値はあると思うが……真央らしいな」
　話を聞いて、彼は苦笑する。
　が、真央自身はうれしくてしかたがないらしい。部室に入って来た美咲紀とも、しばしグッズの話をして盛り上がったあと、「夏朝ちゃんや、刀ちゃん、士ちゃんにも見せて来るのだ！」と言うと、そのまま部室を駆け出して行った。
　それを見送り、修と美咲紀は苦笑する。
「そういえば、撮影隊が帰ったあと、スマホとインスタントカメラで撮った俳優の写真も見せられたな」
「真央ちゃん、案外、木サスのファンなのかもですね」
　呟く修に、美咲紀も言う。
　ともあれ、こうして寝子島の日々は流れて行った。

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