寝子島大橋をわたって｜リアクション

寝子島大橋をわたって

「とうちゃーっく、みっなとっみらーい！」
「やっぱ、休みは人がすっげーな！」
　宇佐見望月と柊沢北斗は、駅前広場に降り立った。目的地は、横浜有数の規模を誇るホビーショップだ。とはいえ、連れ立ってやってきたといっても、二人の趣味はちょっと違う。
「さあ、買うぜ～、買っちゃうぜぇ～、限定ニャンプラ！」
「この日のためにコツコツ貯金してきたからな！城プラモは何を買うかな……あと戦国武将フィギュアも！」
「んあ、ニャンダムシリーズのひとつ、『ニャンダムX』のプラモなんだけどさー、打ち切りになった作品だから、プラモ自体があんまりでないんだよね。でも、クロスサンマニャンダムはフォルムが超カッコよくて、マニア注目の一品なんだよ」
「戦国武将フィギュアの新作ラインナップに、島津豊久があったから、店頭にあったら絶対にゲットしなくては！」
「待ってろよぉ、クロスサンマニャンダム！」
「島津豊久、今行くぜぇ！」
　興奮のあまりかみ合わない会話をしていた二人だったが、結論は無事一致した。北斗と望月は足早に目的の店に向かった。
　
「よぉし、無事限定品ゲット！わお、開けるのも惜しいぜ、ほくほく……。ん？」
　限定品クロスサンマニャンダムを手に入れてご満悦の望月。一方、北斗の方は後悔のないようじっくりと物色しながら探している。
「豊久は無事確保したけど、あとは城プラモ……松山城、会津若松城、松江城、浜松城……うーん、迷うなあ……」
「違いがわからん……」
　社会が赤点の望月は、歴史も苦手だ。
「全然違う！例えばこの熊本城！加藤清正が築いたこの城は、まず石垣に工夫があってだなぁ……」
「うう、なにがなんだかさっぱり……。北斗ちゃんマニアックなんだもん」
「島津豊久はマニアックじゃねぇよ！マニアックって言っていいのは阿蘇惟豊や板部岡江雪斎クラスまで行ってからだ！島津豊久は武士の中の武士なんだぞ！いいか、慶長5年の関ヶ原の合戦で西軍が敗走したとき、島津義弘隊は敵の中に取り残された。このときに、義弘は有名な『敵中突破』を図るんだ。東軍の激しい攻撃に対し、義弘の甥の豊久は『捨て肝の戦法』を取る。そして、主君の身代わりになって討ち死にしたんだ！豊久はじめ薩摩隼人の犠牲も厭わない忠義のおかげで、義弘は撤退に成功したんだよ！」
　暑苦しく説明を受けても、望月は目を回すばかりだ。
「ぐはっ……ギブ、もう頭限界……。作例ニャンプラ見て気を取り直そう……おや？」
　陳列棚に目をやった望月の目に入ったのは、人気漫画「絶対無敵チルチル」のヒロイン、明石野香織の完成版フィギュアだった。それも、香織が大人の姿になった「クイーン」ヴァージョンだったのだが……。
「何か、どっかでこれを見たような……」
　あの暑い夏の日。ごった返す人ごみ。そう、「ネコミケ」のあの日。あの子はこのフィギュアと同じ格好をして―――。
　大人の魅力に満ちたボディ。
　―――弾力を持って、揺れる……
「んがー！」
「ど、どうした？」
　店内で叫ぶ望月に、北斗は慌てる。
「俺様は、俺様はおにゃの子に対して、よこしまだったり縦縞だったりする気持ちは、持っちゃーいけねーんだあああ！」
「落ち着けぇー、望月ぃー！」
　他の客や店員の冷たい視線に、北斗は急いで望月を取り押さえた。