寝子島大橋をわたって｜リアクション

寝子島大橋をわたって

　神嶋征一郎、篠崎響也、呉井弦月の３人は寝子電に揺られながら寝子島を目指していた。弦月は二人の先輩の演奏を思い出す。
「篠崎先輩の演奏はどこまでも正確で、でも心の琴線に触れる澄んだ音色だったし……神嶋先輩の方は、心の奥底の情感を引き出して、聴衆を釘付けにするような強さがありました。僕も、もっと頑張らないと」
「そうだな。賞はもらったけど、油断はできないな」
　弦月の言葉に、征一郎は淡々と今日の演奏のダメだしを始める。
「ヴォカリーズの息の長い音、安定していない箇所があった。ロング・トーンの練習を怠っているとそうなる。パガニーニの早回しも音程をいくつか外してた」
「……。なんだかすごく偉そうな言い方……篠崎先輩、神嶋先輩は学校でもこんな感じなんですか？」
「まあ、誰に対してもそんなもんだ。気にするな」
「ああ、なるほど。単に大人気ないだけですか」
　弦月がやり返すと、征一郎も応じた。
「別に、そう思われるのは慣れている」
「そう思われるのにあまり慣れちゃうと、人生損をしますよ」
「まあまあ」
　かたや自信家、かたや頑固者。衝突しやすい性分の二人を、響也はなだめる。
「まあいい。ちょっと失礼するぞ」
　征一郎はそう言うと、イヤホンと自作曲の譜面を取り出す。
「なんだ、それは？」
「自前の曲だ。最近はPCで譜面も打ち込めるんだ」
　響也は、その譜面に興味を惹かれたようだ。
「神嶋は作曲もするのか？どういうのを作るんだ？」
「……興味があるんなら、次会う時までに一曲作ってやらねぇ事もない」
「いいのか？」
　響也は、征一郎の言葉に対し、嬉しそうに微笑んだ。
　響也の表情を見て、征一郎は思う。今日の結果は不本意だったはずだが、満ち足りた表情をしているのはなぜだろう。こいつにとって、ヴァイオリンとは何なんだろう？
　三者三様の思いをのせ、列車は走る。

　紅林柳霞は、お土産を両手に抱えながら駅に向かっていた。冷凍の焼売のような点心、それから月餅やゴマ団子などのスイーツをたくさん。悠里と菫に勧められ、チャイナドレスも買ってしまった。
「着る機会、あるかな……」
　でも、買う前にドレスを試着して鏡で見た自分はずっと大人びた感じがして、あの人にちょっと見てもらいたい感じもするのだった。

「ただいま……」
　御巫時子は、寮に帰り着くとヨタカさんに話しかけた。窓際には、遊びに来てくれる鳥たちもいっぱいいる。
　自室なら、誰の目も気にしなくていい。時子はろっこんを発動し、鳥たちに今日のことを話し始めた。
「今日は、いろいろなところに行ってきたんですよ―――」

　思い思いに寝子島の外を過ごしたそれぞれの一日が、終わろうとしていた。

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あとがき

担当マスター：三城俊一
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皆様、ご参加ありがとうございました。そして、リアクションがすっかり遅くなりまして申し訳ありませんでした。

寝子島の外で自由に過ごす一日は、いかがでしたでしょうか？

友情を深めた方も、気になる人と距離を縮めた方も、家族サービスした方も、新たな出会いのあった方も、マイペースに過ごした方も。
素敵な一日を、演出できていれば幸いです。

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