星の降りしきる夜に｜リアクション

星の降りしきる夜に

〔銀河鉄道１１１系〕

【月面】

　月に降りるとみんなはそれぞれ思い思いの方角へ歩き始めました。
「月と言えばかぐや姫だよね。なんとか物語の絶世の美女」
　高坂皐くんはのんびりとした口調で言いました。
「竹取物語ね。いいわよねぇ、かぐや姫。おにーさんも是非お会いしたいわぁ」
　うきうきとしたおねぇさん口調でそう答えたのは薄野一月さん。
　二人の後ろには由貴くんと蒼くん、それに月守輝夜さんの姿もありました。

　そうして一行が辿り着いた先のお屋敷では。

「いらっしゃーい」

「……」「……」「……」「……」「……」

　野太い声で歓迎してくれるかぐや姫（♂）の声と姿に一同呆然。
「あら、カワイイボウヤたち。そっちのおにーさんもステキ。ささ、どうぞどうぞおかけになって。……あ、女の子はそのへんにテキトーに」

『なんか明らかに待遇が違う！』

　誰もが心の中で叫びました。
「あ、蒼。かぐや姫ってオトコだったんだな……」
「そんなわけないだろう……！」
　目をぱちくりさせて呆然と呟く由貴くんに、蒼くんが憤慨した様子で突っ込みます。
「行くぞ、由貴……。うさぎを探すんだろ！」
「あ、蒼っ……ど、どうしたんだよっ……！？」
　蒼くんは由貴くんの腕を引っ張って、屋敷の外へ出ていきました。
「あら、二人帰っちゃったわ。せっかちねぇ」
　かぐや姫（♂）がお茶の用意をしながら二人の背中を見送ってそう呟きます。
　と、その直後。
「あ、あたしも急用を思いついちゃったからお先に失礼しまっす☆」
　てへぺろっと舌を出して、一月さんが脱兎のごとく逃げだしました。
「……」「……」
　こうしてうっかり逃げそびれてしまった皐くんと輝夜さんの二人が呆然と顔を見あわせました。
「あら。結局、二人になっちゃったわね。お茶菓子余っちゃうわぁ。ほら、食べて食べて」
「あ、ど、ども」
「い、頂きます」
「うふふ。それにしてもボウヤ可愛い顔してるわねぇ」
「あ、いや、そんなことは……」
（な、なんか本当に『熱烈』な歓迎だなぁ……。それにしても、姫……？）
　皐くんは少し気になりましたが、これも神魂のしわざということにしました。
　一方、おいてけぼりぎみだった輝夜さんもかぐや姫に自己紹介などを試みます。
「あ、あの私は月守輝夜といいます。今日はお招き頂いてありがとうございます」
　すると。
「別にあんたなんか呼んじゃいないわよ」
「え……」
　かぐや姫、取りつく島もありません。
　と、思いきや。
「……と、言いたいところだけど。ふうん、あんたもかぐやって名前なのね。ま、あたしの恋路の邪魔をしないなら仲良くしてあげてもいいわ」
「あ、ありがとうございます」
　どうやら輝夜さん、かぐや姫に気に入られた様子です。
　そうしてしばしば三人は和やかに談笑などを続けました。
「ところで、地球にはどうやって帰ったらいいんでしょうか？」
「あら？　あんたそんなこともわからないでここまで来たの？　意外と大胆ね。普通に来た電車に乗れば帰れるわ。別に乗り過ごしたって時間が経てば自然と元の場所に戻れるし」
「そうですか」
　その言葉に、輝夜さんは「よかった」と、ほっと安堵の息を吐きました。
「ちなみにその辺にうさぎもいるから彼らにも話しかけてみるといいわ。うさぎのお餅は絶品よ」
「ありがとうございます。では、そろそろお暇させて頂きますね」
　輝夜さんはにっこり会釈して、かぐや姫の前を辞します。
「あ、じゃあ、俺もそろそろお暇するよ」
「あら、もう帰っちゃうの～。残念。また来てねん」
「……き、機会があれば」
　皐くんは若干の身の危険を感じながら、なんとかかぐや姫のホールドを逃れて玄関まで辿りつきます。
　こうして、二人は無事に（？）かぐや姫の屋敷を後にして、うさぎを探しに行ったほかの人達と合流を始めます。