星の降りしきる夜に｜リアクション

星の降りしきる夜に

〔銀河鉄道１１１系〕

【月のうさぎ】

　その頃。長月蒼くんと双葉由貴くんは。
「あんなのがかぐや姫なんて僕は絶対、絶対に認めないからなっ！」
「あ、蒼っ、な、なにをそんなに怒ってるんだよっ……！？」
　どうやらかぐや姫が男性だったのが、かなり許せなかった様子の蒼くん。
「いやー。おにーさんもちょーびっくり」
　遅れて逃げてきた薄野一月さんもかぐや姫の姿には驚きを隠せなかったようで。
「あ」
　と、そのとき由貴くんが大きな声をあげて、彼方の方角を指差します。
「うさぎだ！」
『え？』　
　由貴くんの言葉に、蒼くんと一月さんの声がハモります。
「はは。まあ、不思議な現象だから本当にうさぎがいたりしてもおかしくは――って、ほんとにいたぁ！？」
　まさかと思って見つめた先にいた白いうさぎに蒼くんもびっくりして声を裏返します。
「蒼！　行こう！」
「あ、由貴っ。待ちなよ！」
　新しい玩具を見つけた子供のように月の大地を駆けていく二人。
　そんな彼らの背中を見送りながら、
「……かぐや姫が実は男だったというＢＬと月には本当にうさぎがいたというファンタジー。どっちが面白いかしら？」
　と、一月さんは真剣な表情でううんと唸るのでした。

　雨垂ミゾレさんは愕然としていました。
「……なんてこった。俺はいったいどうしちまったんだ？」
　ミゾレさんが目を覚ましたときには彼の乗った車両にはもう誰もいませんでした。
　窓の外は明らかに地球上のものではない不思議な世界。
（もしかするとここが噂のＵＳＡミン惑星なのか……）
　ミゾレさんは頬を伝う嫌な汗をとめることができません。
「さっきはどっからともなく妙な悲鳴も聞こえるしよ……」
　俺はなんて恐ろしい場所に来ちまったんだ、とミゾレさんは恐れおののきます。
　あるいはここはうさぎに支配されてしまった地球という可能性も。
（くそ、ウサギ野郎！　俺を食おうなんて百万年早えーんだよ！）
　絶対にこのまま食われてなるものか、とミゾレさんは生きる決意を新たにします。
「とりあえずはうさぎどもに見つからないように生存者を探すか」
　はたして、ミゾレさんの勘違いは無事に解消されるのでしょうか。

　奈良橋博美さんは敵情視察をしていました。
「やはりうさぎの武器は杵のようだ」
　博美さんはいたって真剣な表情でそう呟きます。
「と、すると相手が得意とするのは接近戦。有効なのはやはり一撃離脱戦法だろうか……」
　博美さんはむむむと眉根を寄せて真剣にうさぎと戦うための作戦を考えます。
　戦いは正々堂々とするもの。
　しかし、相手が得意とするフィールドに考えなしに飛び込むのはあまりにも無策というものです。
「まずは冷静に様子を見るとしよう」
　博美さんは一つ頷き、じりじりと気配を殺しながらうさぎさんに近づいていきます。

　八神修くんはひとしきり写真撮影を終えるとお約束のムーンジャンプを試みていました。
「意外と高く跳べるものだな……。うん？　あれは――」
　高く跳んだ場所から周辺を見まわして、修くんはにわかには信じがたい光景を目の当たりにします。
「……うさぎ……だと……！？」
　そう。修くんの視線の先にはぴこたんぴこたんとハンマーもとい杵を振り上げて真っ白なおもちをつくうさぎさんたちの姿が。
「…………」
　愕然と目を見開いたまま着地した修くん。
（……いや、月だからうさぎなのはわかってはいる。わかってはいるんだ。だが、その、なんというか……）
　しばし、何かを考え込むように黙り込み、
「……ああ、うん。いいんだ、もう」
　やがて悟りを開いたような表情で彼方を見つめて、静かにそう呟きました。
（……せっかくだからうさぎの写真も撮って帰るか）
　寝子島仕込みの順応力で早々に気持ちを切り替えた彼は心機一転うさぎさんたちのもとへ向かって歩き始めるのでした。