星の降りしきる夜に｜リアクション

星の降りしきる夜に

〔銀河鉄道１１１系〕

【火星の停車場】

（デデコーンデデコーン）

「お、ついに火星か……」
　如月庚くんが車内に響くチャイムにまた顔を上げて呟きました。
（月のうさぎに火星人ときて、いったいどんな旅になるのかと思っていたが……）
　ついさっき見た星座の鳥達が羽ばたいた景色だけはなかなかに見応えのあるものだったと庚くんも感じていました。
　そして、ホームに完全に銀河鉄道が停車すると。
「……おい、また降りていく奴らがいるぞ。って、八神、お前もか……」
　庚くんはいそいそと降りる準備をする八神修くんを見て、呆れたように呟きます。
「ああ、火星ソーダを貰えないかと思ってな（ﾜｸﾜｸ」
「……お前は本当にそういうのが好きだな」
「可能性があるなら試さないと。如月も行かないか？」
「……いや、俺はいい。ここで読書の続きでもさせてもらう」
「さっきから熱心だな。いったい何を読んでいたんだ？」
「うん？　おらよ」
　庚くんがそう言って、修くんに見せた本のタイトルは――。

『２００１年銀河の旅』

「……銀河鉄道の夜、じゃなかったんだな」
「ああ。ちなみに窓の外にはおもいきりテンプレの火星人がいるが、まあ気ぃつけろ」
「……ああ、本当だ。タコだな」
「ああ、タコだ」

（もう少し捻れよ……！）

　という二人の心の叫びが車内に響いたとかそうでなかったとか。

　そんな八神修くんが外へ出るよりも少し早く。
「たのもー！」
　奈良橋博美さんは道場破りをするかのようにそう宣言し、ドアを開けて電車の外へ飛び出しました。
「お前達が火星タコか？　俺は地球からやってきた奈良橋博美という者だ。一人の武術家として火星の武術家と手合わせを――うおっ！？」
　博美さんが口上を言い終えるよりも早く、火星人は八本の足を鞭のようにしならせて博美さんに襲いかかって来ました。　
「……問答無用と言うわけか。面白いッ！」
　すんでのところで火星人の一撃を回避した博美さんは驚くどころかむしろ嬉々として、そんな火星人に応戦を開始するのでした。

　双葉由貴くんと長月蒼くんは奈良橋博美さんの様子をハラハラしながら車内で見守っていました。
「あの人、大丈夫かな……？　あ、背負い投げ（ﾄﾞｽﾝッ」
「僕に訊くなよ……。あ、かかと落とし（ｸﾞｼｬｯ」
　博美さんと火星人の戦いは凄まじく、ドカッ、バキッ、グシャという音が扉を締め切った車内からも聞こえてきます。
「こうなりゃヤケだ！　どうせ誰も信じちゃくれねーだろーが、せめて写真だけは撮りまくってやる！」
　雨垂ミゾレさんはカメラで、そんな博美さんと火星人の戦いの様子を撮影し続けていました。

　数十分後。
「……」
　何かを考え込むような表情で八神修くんが電車に戻ってきました。
「おけぇり。どうだった？」
　如月庚くんが本から顔を上げて、訊ねました。
「……ああ、うん。普通に苛性ソーダで死ぬかと思った」
「……そうか。まあ、生きててよかったな」
　如月庚くんが気遣うように言うと、
「ああ。火星人の写真も撮れたし、な」

『ふぅ……』

　まあ神魂の仕業だとこんなもんか、と二人の少年は揃って小さく息を吐いたのでした。

「やはり火星人も強かった。もしかすると木星や、ほかの星にもまだ見ぬ強い敵がいるんだろうか……」
　戦いを終えて（ちなみに今回は引き分けでした）、電車に帰還した奈良橋博美さんは戦いの余韻も冷めやらぬままにまだ見ぬ宇宙の彼方の敵に思いを馳せます。
　と、そこに目を輝かせた双葉由貴くんがやってきて。
「なぁ、お前凄かったな！　どうやったらあんなに強くなれるんだ！？」
　と、小さな子供のような（実際まだ小学四年生の男の子なのですが）顔で訊ねます。
　それに、博美さんはちょっと困ったように頬を掻いて。
「ん？　いや、俺は別にそんな大した腕前でもないが……そうだな、強いていうなら日々弛まぬ努力を続けることが大切、かな」
「そ、そうか！　よし、蒼！　帰ったら、俺達も特訓だ！」
　由貴くんは色々なことがありすぎて、ちょっとテンションがハイになり過ぎているようです。
　と、そんなとき。

（デデコーンデデコーン）

『あ』

　みんなの頭上で銀河鉄道のチャイムが鳴り響き、

『えー、寝子島のみなさん。本日は寝子島銀河鉄道にご乗車頂き、誠にありがとうございました。
　これより当車両は地球へ帰還致します。みなさま御心残りなどございませぬよう最後のひとときまでゆっくりとお楽しみください』

　銀河をめぐる不思議な旅がゆっくりと終わりのときを迎えようとしているのでした。

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星の降りしきる夜に

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