星の降りしきる夜に｜リアクション

星の降りしきる夜に

〔銀河鉄道１１１系〕

【そして火星へ】

　その頃、ホームに停車にしていた銀河鉄道の車両の中では。

（デデコーンデデコーン）

「ん？」

　月の石だけを拾い、早々に車内に戻って読書を再開していた如月庚くんが頭上で鳴ったチャイムに顔を上げていました。

「もう一時間経つのか……。あいつら、間に合うのか？」
　庚くんは窓の外を覗きます。
　すると。
（お、帰ってきたな……）
　その視線の先にぞろぞろと帰還してきた銀河鉄道の乗客達の姿が見えました。
「おけぇり。どうだった？」
　庚くんはたまたま見かけた八神修くんにそう声をかけてみました。
「ただいま。とてもよかったよ。お餅もおいしかったし」
「……餅？」
　庚くんは怪訝そうに眉をひそめます。
　が、あえて深くは突っ込まないことにしました。
　そうして銀河鉄道は月のホームを出発し、次の目的地へ向かいます。

「……いい勝負だった」
　奈良橋博美さんはゆっくりと離れていく窓の下の月面を見下ろしながら、ふぅっと満足げに深い息を吐きました。
　あれから博美さんは餅つきそっちのけでうさぎさんと熱いバトルを繰り広げていました。
「今回は俺が勝たせてもらったが、もし相手が本気で――本来の杵を使ったスタイルで戦いを挑んできていたら負けてだろう」
　まだまだ修行が足りない。
　小さく頭を振り、博美さんは次の戦いに備えて小休止をとるのでした。

　双葉由貴くんと長月蒼くんは窓の外を流れる星を眺めていました。
「あれはベガ、あれはアルタイルっていうんだよ」
「へー！」
　由貴くんは窓の外に身を乗り出さんとする勢いでそれらの輝く星とその向こう側に広がる宇宙を見つめます。
「宇宙ってすごくきれいなんだなー」
　と、思わず率直な気持ちを漏らしてしまったその直後。
「……っ、あ、いや、これは、その……」
　由貴くんは自分がなんだかとても子供っぽいことを言ってしまった気がして、しどろもどろになって慌てます。
　そんな由貴くんに蒼くんはくすりと優しく笑って、
「べつに恥ずかしがるようなことじゃないだろ？　綺麗なものを素直に綺麗だと言えることは悪いことじゃないよ」
　と、由貴くんの茶色の髪をくしゃくしゃと撫でてあげました。
「な、なんだよーっ！　子供扱いするなって言ってるだろー！」
　ぷんすか怒る由貴くんとそれを優しげに見つめる蒼くんの二人は端からは本物の兄弟（姉弟？）に見えたといいます。

　大天使天吏さんは窓の外を眺め続けていました。
（これが誰かの夢なら――そうね、天の川が乳の流れであるように、川の上を飛んでいる鳥は見えないかしら？）
　と、そのときでした。
「え……」
　瞳に飛び込んできた景色に天吏さんは思わず驚きの声を漏らしました。
　天の川の流れに鳥の名を冠した星座「はくちょう座」と「わし座」を構成する星々が光のラインで繋がれて、白鳥と鷲のかたちを描いたのです。
　刹那、二つ星座はその翼をはためかせて銀河を飛翔しました。

『…………！』

　そのにわかには信じがたい幻想的な光景に鉄道にいた誰もが息を飲みました。
　光の白鳥と鷲は天の川をまたぐように二度、三度と互いに交錯するように飛び、やがて比翼の鳥のように翼を並べて宇宙の彼方へ飛び去っていったのでした。

　天吏さんは、そんな非現実的な光景を目の当たりにして、
（星座なんて人間が空を見上げて勝手に作りだした妄想の産物。そんなことはわかってはいるけれど）
「……たまにはこういうのも悪くないわね」
　小さくそう呟き、静かに微笑んだのでした。