寝子島に長月の風吹いて｜リアクション

寝子島に長月の風吹いて

＊２年１組　行梨謡の場合
　担任に促され、謡は転科生として自己紹介をする事になった。
（緊張するなー主に夏休みの宿題やってないせいで。まー個性ゼロでモブな俺なので適当でー）
　なんて思っていると担任から笑顔で「どうぞ」と言われている気がした。そして、謡は口を開く。
「体育科から転科してこのクラスにきましたー、田中太郎でー……」
　ちょっと軽い感じにそう言おうとしたら、担任と目が合った。眼差しは非常に生暖かい。それでありながら「真面目にやって」とでも言いたそうな眼をしていた。それでも謡はペースを変えない。
「趣味はうさぎさんグッズ集めとか、うさぎさんとデートすることかなー。よろしくお願いしまーす」
　拍手が起こり、謡は席に戻る。そして、宿題の提出時間となり……補習を言い渡されることと相成った。

＊２年８組　毒島虹子の場合
「あの、遅くなってすみませんでしたっ！」
　そう飛び込んできた茶髪の男子生徒……なぎさと、クラスメイトと話していた虹子の目が合う。虹子は上品な微笑で歩み寄った。
「貴方も、８組の方なのですか？」
「えっ？　８組……！？」
　なぎさはその言葉で教室のプレートを確認し、顔を真っ赤にした。あわてて教室をでるなぎさ。
「間違えました！　ごめんなさいっ！！」
　なぎさは一礼して立ち去る。その姿を見送りながら虹子は小さくため息を吐いた。

　担任から自己紹介をするよう言われ、教壇の前へ。虹子は教室中を見渡し、芸術科独特の雰囲気を眺めつつ優雅に一礼した。
「本日より寝子島高校に通うことになりました、毒島虹子と申します。不安な所もありますが、それ以上にここでの学園生活を楽しみにしていますわ」
　虹子は続けて専攻なども語る事にした。
「専攻は被服ですわ。苦手なことは名前で弄られる事ですの」
宜しくお願いします、と一礼すれば暖かい拍手で迎えられる。さらりとそつなく実家がお金持ちである事も滲ませつつ、彼女は席に着く。
（誰か話しかけてきたら親しくして差し上げないと……）
　転校生の愛らしい笑顔を振りまきつつ、彼女はくすり、と笑った。

＊２年９組　音海なぎさの場合
（危なかった……。ホームルームに間に合わないところだった）
　転科初日という事もあり、教室で迷ってしまったなぎさ。あたふたしながら無理せず担任の上野睦子と一緒に行けばよかったか、とも考えたがとき既に遅し。先ほどは間違えて８組のクラスへとおじゃましてしまった。
　どうにか９組へ入ればチャイムがなり、いよいよホームルーム。

（な、なんで教えてくれなかったのさ！？　素で忘れてたよ！？）
　始業式終了当時、そんな事を思っていたなぎさだったが、教室を間違えたりしてすっごくへこんでいた。
（このまま縮こまっていたいなぁ……）
　脳裏には小さくなった自分が浮かぶ。度重なる教室の間違えにより精神的に疲れていたなぎさはなんとなくそんな事を思っていた。
「どうしたのですか？　気合を入れなさいな」
　睦子にそういわれ、なぎさは気合を入れるべく頬を軽く叩いた。そして、きっちりと顔を上げる。
「９組へ転入しました。音海なぎさです。宜しくお願いします」
　顔を上げれば、暖かい拍手が出迎えた。

＊２年１０組　志波武道の場合
「それじゃ、宿題を提出してねー！」
　声を張り上げた担任の相原まゆの前に、武道が現れた。
（夏休み前半に大体終わらせるものですよねー。ところで、たー坊は大丈夫ダッタノカシラ？）
　余裕で提出しつつも、桜花寮にいる弟・拓郎の様子が気がかりである。まさか宿題の残り１ぺージ残して寝坊し、つっぱしったなんて知らないのだ。
　次は体育祭実行委員について。これに武道がびしっ、と立候補。
「はいはーい、俺やりたいでぇっす！　盛り上げたいデッス！！」
　その勢いの良さにまゆも思わず笑ってしまう。
「（愛しいマイブラザー、たー坊や）皆が楽しめるような体育祭にしたいでぇっす！」
「頼もしいわねぇ」
　いつものテンションで受け答える武道だったが……なんだか心地の良い風が窓から滑り込んできた。仄かに香る花の香りに、武道は表情を引き締める。
「力及ばない所あれば、協力お願いする所もあるだろうけど……その時は皆、頼りにさせてもらうな。いつも構ってくれてありがとう」
　すべていい終わり、なんかかっこよく決めてしまった武道。このあと、その件について真っ赤になって縮こまったのだった。
(いやぁ～ん、なんか今、こっぱずかしい事言った気がする！？　ホントーにはずかちぃ！)
　両手で顔を覆えば熱が伝わる。確かに生きていることを実感した。

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寝子島に長月の風吹いて

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