ののこがきゃはあ～と笑ったら｜リアクション

ののこがきゃはあ～と笑ったら

【お出かけ先にて　その２】

＜ダレカにも幸運を＞
「うーん、おかしいな……」
　その男性は、草むらの中を焦った様子でかき分けていた。
「ん、なんか探してるのか？」
　散歩中だった吉祥寺黒子がたまたま居合わせる。
「いやあ……この辺に財布を落としちゃったみたいで」
「なんでそんな草ボーボーのところで落としちゃうかな」
「参った……今月分の家賃が入ってるのに……」
「そりゃたいへんだ、大丈夫、諦めなきゃ幸運にも見つかるかも」
　そう言って「幸運」の入れ墨が入った舌をベーと出す。
「日が暮れる前までには見つけたいけど……って、あれ、あ、あった！」
「お？　よかったじゃん」
「う、うん、なんか分からないけど、君のおかげのような気がするよ！」

　散歩を再開しながら黒子は考え込む。
（俺のろっこんのナニカが変わった……）
　漠然だがそんな気がした。
（俺のためだけじゃなく、誰かにも、幸運が）
　その変化を何となく把握する。それはまるで、黒子の内面の成長を具現化するような、ろっこんの変わり方だった。
（誰かの幸せを願えるのか）
　フッと、あまり黒子らしくない笑顔が漏れる。
（って、あれ）
　ここで黒子、立ち止まり気づく。
（ここどこだ？）
　夢中で歩いて、知らない場所へ出てしまった。
（参ったな……迷子か）
　頭を掻く。ろっこん使用による反動だった。

＜またたび動物園のフツウじゃない日常＞
「ママー、珍しい動物がたくさんいるね！」
「ほんとね、動物さんかわいいね」
「あ、うさぎさんだ！　触ってもいい？」
「ええ、行ってらっしゃい」

　ここはまたたび動物園のふれあいコーナー。子どもたちが動物との無邪気な触れ合いをしている中で、一人若干ダークなオーラを放ってうさぎを愛でている男がいる。
「うさぎさん、今日もきゃわわでちゅねー」
　夢はうさぎさんハーレム、行梨謡。
「結婚しようぜうさぎさん」
　うさぎを抱き寄せ、耳元で愛を語る。

「ま……ママ、珍しい動物がいるね」
「そうね……もう少し離れましょうね」

　周りがドン引きしようが謡は構わない。
（今日のうさぎちゃんはいつもと違うな）
　ツンデレなうさぎちゃんは、普段ならば謡にうさキックを浴びせてくるのだが、今日はそうでもない。むしろ自ら謡の頬へすりすりしてくれるではないか。
「これは結婚不可避」
　そうつぶやく一方で、自分の中でナニカが変わったことを悟る。
（ろっこんか、ろっこんなのかこれは）
　もうこの際なんでもいい、うさぎさんがすりすりしてくれるなら。
（らぶらぶし放題だ）
「うさぎさん、すけべしようや」
　イケメンボイスでささやき続ける。
「ママー……」
「み、見ちゃいけません！」

＜空中散歩＞
　澪乃澄佳は人気のないだだっ広い敷地でろっこんの練習に励んでいた。
（もっと、もっと上手に飛べたら……）
　空を飛ぶという便利な能力。しかしこれまではふらついたり、速度がゆったりであまり便利さは感じられなかった。
（でも今日はナニカが違う気がするんよぅ）
　懐中時計を取り出して時刻を確認する。お昼過ぎ、９月といえどまだまだ日差しは強い。
「頑張って上手に飛べるように……って、ふへ？」
　体がフワッと浮いたと思いきや、これまでにない加速。
「なんだか急に速くなったべか？　すごいすごい！」
　とはいえまだコントロールは利かない。注意しながら一旦着地。
　今度は鞄と一緒に飛んでみる。
（んー、さっきより速度は出ないべなぁ）
　どうやら重さに比例して速度は変わるらしい。あとは自分の気分も関係ありそうだ。
（とにかく、今までよりは便利になったべ。あー速く飛べるって気持ちいいべ）
　初秋の風を浴びながら、いつまでも飛んでいたいと思う澄佳だった。