ののこがきゃはあ～と笑ったら｜リアクション

ののこがきゃはあ～と笑ったら

【お出かけ先にて　その１】

＜和みまショー、元気にしまショー＞
　高梨彩葉は平和な一日をショッピングして過ごしていた。
「あら」
　とある雑貨屋、可愛い編みぐるみと目が合い、一目惚れしてしまう。なんだか「買ってちょうだい〜」と訴えられているような気さえした。

　数分後、彩葉は編みぐるみを買って雑貨屋を出る。
（なんだろう、すごくこの子が気になってしまった）
　抱き上げ、しばらく編みぐるみと見つめ合う。
（まさか、この子も操れたりしないかな？）
　自作ではないが能力が発動するのではないか。そう直感で思い、合言葉をつぶやく。
「レッツ、ショータイム！」

　すると、彩葉の手から編みぐるみが離れ、一人で買い物通りを歩き始めてしまった！

「お、なんだなんだ」
「きゃー可愛い」
「操り人形ショー？」

　途端に集まり出す人だかり。
（ひー、本当に発動するなんて思わなかった……なんで操れるの！？）
　人だかりの期待に応えるため、しかたなく編みぐるみに宙返りをさせる。
（ひー、こうなったら一通り芸を披露……するか）
　あくまで操り人形の体で。やりきるしかなかった。

（うわぁ、自分で動く編みぐるみさん、可愛いなぁ）
　そんな彩葉のショーを曖浜瑠樹は遠巻きに見ていた。
（いいねぇ、和むなぁ）
　ホクホクしている瑠樹の周りにいる人たちの心も和んでいるのだが、瑠樹自身は気づかない。
（あれ）
　少し歩いたところで気づいた。自分にナニカ変化があったように思ったのだ。
（何か変わった……かねぇ？）
　ショーウィンドウに映る自分を見るが、特に変化はない。
（なんだろう？）

　商店街を抜けて住宅街へ。電話中の厳つい男性とすれ違う。
「今回のミス、どう落とし前つけてくれんのじゃ！　ボケ！　カス！」
（怖いおじさんだなぁ）
　肩をすぼめながら道端に寄った拍子に、壁に貼ってあるサンマさんのポスターを発見。
「いいねぇ、和むなぁ」
　またほんわかする。

　またも瑠樹のろっこん「ゆるゆる和みと恩恵の輪」が発動した。
「あれ、俺なんでこんな怒ってたんだっけ？　いや、もうそんな謝らなくていいんだ。うん、うん、全然。もう怒ってないから。むしろこっちこそごめんな怒鳴ったりして。なんか今俺すごい気持ちが穏やかだから、気にしないでいいよ」
（あのおじさんもサンマさん見て和んだのかなぁ）
　いつまでもサンマさんを見ていたかったが、そろそろ家に帰らないといけない。
（今日の晩ご飯は何かなぁ。お手伝いしないとねぇ）
　パタパタと靴底を鳴らして駆け出した。

「さてさてーそろそろお家にかーえろっと」
　加藤戦乙女はショッピングからの家路につくところだった。
（結構良いお店も見つけたし、収穫のある一日だったねぇ）
　いい買い物ができたようで満足げだ。

　一方、戦乙女の向かう先である冴えない会社員は電話を切ると、大きなため息を吐いていた。
（はあ、お客さんカンカンだよ……最後のほうなぜかむしろ謝られたりしたけど、絶対怒ってるよなあ……）
　自分はなんて仕事ができないんだろうか。
（もう生きる気力すらないよ……）
　うなだれ歩くこともままならない。

　戦乙女の足取りは軽やかだ。
（帰ったらさっそく試着だな〜）
　買い物袋を見下ろしてニンマリ。家に帰り試しに着てみて、鏡の前に映る自分の姿を想像する。
（ふふ、絶対かわいいに決まってる）
　きゃぴっ、といった感じで口の前に握った手を添え、スキップして足を前に出す。その狙ったようなかわいらしい仕草は、通りすがる大学生の胸をきゅんとさせた。
　さらに、少し先にいた冴えない会社員も、見てはいなかったが心にパワーを感じた。
（あれ……なんだかやる気がみなぎってきたぞ……よし、頑張ろう！）
　戦乙女のろっこん「エインヘリャルに祝福を」。年老いて体の自由が利かなくなってきた猫は塀の上を駆け出し、枯れかけの花はシャキッと姿勢を真っすぐに直す。
（今度は星ヶ丘のほうにも行ってみよ〜っと）
　周りを元気にする力。彼女自身は全く気づいていないのだった。