ののこがきゃはあ～と笑ったら｜リアクション

ののこがきゃはあ～と笑ったら

【夜中にて】

＜凪ぐ夜＞
　その静かな夜、音海なぎさは一人考え込んでいた。ろっこんについてである。
　初めてろっこんを自覚したのも夜のことだった。
　怪我人を治療し、相手に自分のことを「かわいい」と思わせるほど、なぎさは強い腕力を得ることができた。その力は誰かを助けるのにはとても強力だったが、同時に女性と思われる憂いを抱く代償もあった。
（でも……ボクは今までも気まぐれで女の子として外を歩いたりしていた。そう、昔から。気づいていなかっただけなんだ）
　もう一つの自分、ナギ。
（ボクたちは、２人でひとり、ひとりで２人）
　ボクたちに境界やスイッチなんて要らない。そう結論づけたとき。
（ナニカが変わった）
　なぎさはすぐに変化を悟ることができた。
（そう、これからは……ナギが治癒をして……ボクが強化された力を使うんだ）
　ナギがトリガーを引き、なぎさが大きな推力を得る。一つのメカニズムの中にいる２人。
　その夜、なぎさは新しい力とともに新しい自分の価値を見出した。

＜大間さんとの夜＞
　夜の寝子ヶ浜。空は澄み星々は満天、月は半分より小さいが、視界は悪くない。
（あたしが求めるマグロらしさが足りない！）
　琴村嬢は心の中で怒鳴った。
（もっと、もっと、ダイナミックさというかさ！）
　自身のろっこんについてである。
「とりあえず呼んでみるか。大間さん出番だよ！」
　砂浜の上にどどんと、マグロの大間さんが出現する。

　ピチピチ……ピチ……ピチ……

「く、もう弱ってきている」
　大間さんは魚類だ。当然である。
「次は海に入って」
　このとき、嬢は自分に起きた変化を感じていた。
「大間さん出番だよ！」
　海面を真っ二つに切り裂いて、それは大きな大きな大間さんがバシャーンと跳ね上がった。
「これ！　これがわたしが求めていたろっこんっ！　これからあなたはマグロの大間さんDX（デラックス）よ！」
　瞳をキラキラ輝かせて大間さんに言う。
「これからもよろしくねっ」
　抱きつこうとする嬢に対して、大間さんの尾びれアタック！
「いったーい！」
　その夜、嬢はビショビショでちょっと打ち身みたいな外傷を負ったが、大間さんの確かなDX感を堪能した。

＜切り取られる夜＞
　オカルトマニアの切箸九朗は、廃墟になったある一軒家の敷地内に入った。立ち入り禁止の看板などお構いなしだ。
（一家心中をしたとか、夜窓に立つ女性が見えるとか、色々噂は尽きませんが）
　果たしてどんなものか。霊感はちっともないので気配や雰囲気からは何も汲み取れない。
「おっと」
　ふとした拍子、お守りにしている鋏が懐から落ちた。
「人影でも見えたら儲け物なのですが」
　なんてつぶやきながら姿勢を屈め、鋏に手が触れたそのとき。
「ん？」
　鋏の落ちた場所の影が、なんと人の形になっているではないか。
（おかしいですね）
　影の出所をよく観察するが、人のような形を成すものなど見当たらない。
（影の霊、それとも霊自体は見えないけれど影だけは見えるとか……まさか）
　うんうん悩んだ挙げ句、
（ろっこんでは？）
　と気づく。別の場所でまた同じシチュエーション、つまり鋏を落としてみた。
（ほう……なるほど）
　鋏と手、そして影。この３つによって成立する新しい能力を発見する。
「これは悪くないですね」
　その夜、一軒家にはこだまする怪しい男の笑い声と、ありえない形の影があちこちに出現するという新しい噂が追加された。