ののこがきゃはあ～と笑ったら｜リアクション

ののこがきゃはあ～と笑ったら

【学校にて】

＜木天蓼大の大道芸＞
　木天蓼大学構内の芝生の上、浮穴開は友人たちと休憩時間を楽しんでいた。
「そいじゃちょいと芸でも披露してみるかいねぇ」
　おもむろに立ち、さっきまで遊びで使っていたフリスビーを頭上へ持っていき、クルクルと回す。
（さあ、どんなもんやろ）
　開のろっこん「スピニング・トリック」は、注目されている中で皿状のものを回すと発動する。
「ん？」
　開に集まっていたはずの注目が、たまたまそばを通りかかっていた教授のほうへ移る。
（おお、皿やなくてもいけるもんやなぁ）
　それにしても、開以外の全員が教授のほうに視線を向けている一方で、一人黙々とフリスビーを回す開。客観的に見るとすさまじくシュールな光景である。

＜寝子高の射手＞
　弓道場。天満七星はいつもと同じように黙々と矢を撃ち、技術に磨きをかけている。
「……」
　的に狙いをすまして引いたとき、自分の中でナニカが変わった気がした。
「つまり、そういうこと、ですのね……？」
　何も知らない無知な自分だが。自分の中で起きた変化、そしてその変化が周りに与える影響を、弓の道で己と向き合い続けた七星はありありと知ることができた。

　世の中には戦うことのできない弱い人がいる。世の中には戦うことしかできない弱い人もいる。
（私は……そんな弱い人々を護ることしかできないから）
　せめて、この力を制御できるようになりたい。皆を生き延びさせるために。
「……」
　静かに放つ。七星の矢は的のど真ん中を射抜いた。

＜屋上のピコピコハンマー＞
　寝子島高校屋上。進級のための補習を受けている斉田珠喪は晴れた空の下で昼食休憩をとっていた。
（そういえば）
　こんな晴天の屋上で、親友から紫の髪留めをもらった。それは今も珠喪の髪を束ねてくれている。その親友とはなかなか会えないが、この髪留めを通して気持ちが伝播しあっているような、触れているとそんな気分になってくる。
（思えば人は皆、支え合っていく生き物なんじゃな。鎖のように連なり、強い絆を作っていくんじゃ）
　そんなことを思いながら、お気に入りのピコピコハンマーを取り出した。これも親友からの贈り物だった。
「絆……鎖……チェイン」
　何の気なしに発した言葉だった。直後、珠喪の中でナニカが変わった。いや、現実に目の前にあるピコピコハンマーが変わったのだ。
「？」
　槌と柄の間に鎖が出現していた。
（わらわの力が変わった……）
　柄を持って振ってみる。鎖から先が鞭のようにしなり、屋上のフェンスにガシャンと音を立ててぶつかる。
（これで色々できる……困っている人を助けることも）
　贈り物の進化。今の気持ちが親友の元にも届いてくれれば。そう思うのだった。

＜学校帰りのレスキュー＞
　学校からの帰り、橋を渡っていた坂上直は川上から流れてくる塊に気づいた。
「猫……？　猫！？」
　川沿いを駆け出す。
「どうしよう……」
　周りに人はいない。助けを呼ぶ時間もなさそうだ。
「あまり気が進まないけど……」
　この際四の五の言っていられない。
　流される子猫より先回りし、川辺に立つ。
（今、助けるからね）
　水に手を付け意識を集中。ろっこん「水紡ぎ」、流れてくる子猫に狙いを澄ますと、その周辺の水がもわっと歪む。水で作られた透明な器が子猫をすくいあげた。
（このままこっちまで……よし、いける！）
　子猫がこぼれそうになったら水の流れを変えてフォローする。器は形を変えつつ川岸へ引き寄せられていった。
　引き上げられた子猫は耳までずぶ濡れ、しかし何とか体はもったようだ。ハンカチで優しく拭いてあげる直。と、そこへ母親らしき猫が警戒交じりで駆け寄ってくる。
「後はよろしくね、お母さん」
　我が子を愛しくペロペロ舐める母猫に手を振り、川辺を上がっていく。