ののこがきゃはあ～と笑ったら｜リアクション

ののこがきゃはあ～と笑ったら

【シーサイドタウンにて　その１】

＜迷子と誘惑と葉っぱと光＞

「あれぇ？」
　買い物中の伊藤佳奈は、街行く人に手当たり次第声をかける女性を見かけて首を傾げた。
「何やってるんだろ？」
　と思っているうちに今度は佳奈の番になる。
「すいません、この子を見ませんでしたか？」
　そう言って見せてきたスマホの画面上、５歳くらいの男の子が笑っていた。
「いいえ……迷子、ですか？」
「そうなんです……」
　憔悴しきっている。
「もし見かけたら電話しますね。番号を教えてくれませんか？　あ、あと着ている服の色や特徴も」

「よし」
　女性が次の人へ声をかけるのを見ながら佳奈は気合を入れる。見たばかりの男の子を思い浮かべ、
「ロロレンロ」
　ろっこん「イマイアイニユキマス」を使った

　……が。
　どうもうまくいかない。いつもなら方角が何となく分かってくるのだが。
「あれ？」
　異変を感じ目を開けると、目の前に光の筋ができている。周りには見えていないようだ。
（もしかして……）
　これが男の子の場所へ導いてくれるかもしれない。光の筋を辿り始める。

「あ」
　道ばたで岡野丸美ははたりと立ち止まる。
「メモ紙……忘れてきちゃった」
　買い物リストを玄関に置いてきたことを思い出す。
「えっと……トイレットペーパーと醤油とノートと……」
　今はまだ覚えているが、おっちょこちょいの自分だ。忘れないうちにメモしておこう。
「って、メモがないんだった……」
　よーし、ここは。街路樹のプラタナスの葉っぱを拾うと、公園の木陰へと入っていった。
　葉を頭にのせて手を叩こうとしたそのとき。
「あら？」
　公園をうろうろ歩く佳奈を見つける。困っている様子だ。
「どうかしたの？」

　佳奈から事情を聞くやいなや、丸美も迷子探しに参加を決める。
「服装とかは分かる？」
「えっと、車がプリントされた赤の半袖に」
「あ、忘れないようにメモしよう！」
　頭にのせたままだった葉っぱの位置をなおし、手を３回叩く。すると……

「わ！」

　ポスター大の大きな紙が丸美の上半身を包み視界をふさいだ。
「あれぇ？　なんかいつもと違うよ？」
　ろっこん「葉っぱ紙」に変化があった。でかいサイズの紙は初めてだ。
「いつもと違う……私と同じだねぇ」
「とにかく、この紙にメモしとこう」
「うん」
　光の筋を追う佳奈。曖昧だが、公園の外へと続いている。

「あら、ボク、どうしたの？」
　シーサイドタウンの外れをぶらぶらしていた最上るるかは、道ばたで丸くなり泣きじゃくる男の子を見つけた。
「お母さんは？」
　姿勢をかがめて尋ねてみても、男の子は泣いてばかりだ。
「うーん困ったなぁ」
　近くには交番はない。強引に連れて行くのも気が引けるし、かといって放ってもおけない。
　と、るるかの体にナニカ直感がよぎった。
「そうか」
　ポケットから携帯を取り出す。
「ね、ね、おねえちゃんと写真撮ろっか」
　少し興味を持ってくれたようだ。
「うん……」
「よしいい子だね」

　ハイチーズ、パシャリ

「お、ハンサムに撮れてるよ〜」
　初めて笑顔になる男の子。
「どう、元気でた？」
「うん！」
　ろっこん「テンプレテンプテーション」。２ショットで撮った相手の好感度を抜群に上げてくれる。
「ママ一緒にさがそっか。おねえちゃんは怪しい人じゃないから、安心して」
「うん！」
　手をつなぎ歩き出す。
（とはいえ何の手がかりも無しじゃなあ）
　さっそく困り始めたときだった。

「あっあの子！」
　向かいから駆け寄ってきた佳奈が男の子を指差した。
「あれ、もしかしてこの子のこと知ってる？」
　るるかの言葉に佳奈がうんうんとうなずく。
「車の赤いシャツ……間違いない！」
　パンフレットサイズに折り畳んだメモを読み上げながら丸美。
「ず、ずいぶんかさばるメモ紙だね……」
「よし、さっそくお母さんに電話しよう」
　佳奈が携帯を取り出す。

　こうして無事に男の子は母親の元へ。一件落着だ。
「はーよかった」
　安心しながら佳奈、自分の能力が変化したことが少し引っかかっている。効果は変わらないが、ルートがぼやっと見える分、便利になったような気もした。
「いやーいいことしたあとは気持ちいいな」
　自身のろっこんなど自覚せず、晴れやかな気持ちに満たされるるるか。
「さて、私は買い物を再開するかな……あっ！」
　丸美が突然声を張り上げる。
「買ってくるもの忘れちゃった……メモもしてないや……」

　多少のトラブルあれど、寝子島は今日もほんわか平和なのであった。

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