悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間｜リアクション

悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間

「死ぬ覚悟が決まったか、小童ども」
　義元と相対した冥は、ろっこんの発動を試みた。
「白虎之舞・猛虎爪刃脚」―――心の中で虎を強く念じ、踊るように蹴りを放つ。そうすると、視界内の物を切断できるのだ。
　なめらかに冥の足が動き出す。同時に、義元の刃が向けられる。義元との物理的な戦いについては、零が冥を守ることを信頼するばかりだ。しかし―――
　義元の動きは素早く、かつ強力であった。冥の目に、零の太刀が真っ二つに折られる瞬間が映った。
「零！」
　仲間が、危ない―――冥の心にゆらぎが生じたその時だった。
　長槍を手にした一人の侍が、義元と零の間に割って入る。
「我こそは服部小平太！そなたの動き、命に代えて封じる！」
「猪口才な！」
　義元は妖刀を振るい、小平太の膝頭をざっくりと割る。しかし、その隙を突いてもう一人の侍が、単身義元に飛びかかった。
「毛利新介、見参！今ぞ、義元を討ち取れい！！」
　二人の侍が蛮勇を奮ったおかげで、一瞬の隙が生まれた。
　冥の迷いは、消えた。

　冥は虎のごとく優雅に、しかし力強い舞を見せたかと思うと、動きを止めた義元の妖刀に、渾身の蹴りを放った。
　妖刀は、真っ二つに切れた―――

　妖力を失った今川義元は、次の瞬間には毛利新介に組み伏せられる形になった。しばし激しく転がりあっていたが、ついには新介の脇差によってとどめを刺された。
　虫の息になった義元は、少し口を動かして事切れた。
「―――兄者。地獄で会おう」
　そう言っているように聞こえた。
　義元の最期の意地であろう、新介の片手の親指は食いちぎられていた。
「よくぞ、義元の妖刀を封じてくれた。お主たち、褒美は一等じゃろう」
　片手で出血を抑えながら、新介は冥と零の方を見やった。
「ああ、その働き、殿にしかと報告しよう。見事であったぞ」
　膝の負傷で動けずにいる小平太も、二人を賞賛する。
　だが、冥と零は目を見合わせると、新介と小平太に向かって言った。
「一番槍は服部小平太。一番首は毛利新介。それでよい」
「そうね。あなたたち、体を張ってあたしたちを助けてくれたもの」
「褒美はいらぬのか？」
　怪訝な顔をする新介と小平太に、二人は黙って微笑んだ。

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