猫鳴館、Ｇ襲来！｜リアクション

猫鳴館、Ｇ襲来！

●防衛班、善戦する

　マウル暴走の報はあっという間に館内を駆け抜けた。
　防衛班の橘内みちる、鮫ノ口礼二郎、それから小刀祢切奈が駆け付ける。
　とくに礼二郎は月乃やマウルとクラスメイトであったので心配もひとしおだった。
「大丈夫か！」
　礼二郎は丸めた新聞紙でＧを薙ぎ払いながらマウルに近づく。
　士の雪のお蔭でＧの動きは鈍っており、新聞紙に好きなように打たれて落ちる。
　だがマウルはクラスメイトの姿など目に入っていないかのようだ。その猛攻は止まらない。
　みちるはこの光景にあることを思いついてしまった。
「みんな！　Ｇをマウルくんの方に追い詰めるとよ！」
　暴走するマウルにＧを集めて一網打尽。
　それはある意味仲間を利用した非情な作戦といえるかもしれない。けど……。
「勝ちに行くったい！」
　みちるは屈みこんで窓の下に陣取った。長い廊下、前方で暴れるマウルとＧの群れ。みちるが最後方。防衛班と遊撃班の背中を見ながら、間合いを詰めてゆく。
「ＧＯ！」
　みちるの掛け声。同時に、礼二郎が箒でＧを掃き寄せながら走る。
「村雨！」
　切奈の肩から飛び降りた山猫がＧに飛びかかり、切奈自身も人に当てないようサバイバルナイフを振いながら後を追う。
「遊びは終わりだよ、Ｇ」夏夜が冷徹な目で見下ろせば、
「しゃーねぇ、行くか」望月も霧吹きで追い立てる。
「私だって！」月乃も丸めた新聞紙でＧを追い立てながら進み、
「やれやれじゃ」集まったところ目掛けて、いいなも水風船爆弾を投げつける。
　マウルの暴走も留まるところを知らず、追い立てられたＧたちはみるみる数を減らしてゆく。
　ところがこのままでは形勢不利と悟ったのか、Ｇたちは突如転身し、月乃たちの方に向かってきた！
「きゃ、きゃあっ！」
「藤堂！」
　礼二郎が月乃を庇って立ちはだかる。しかし潰れたＧとぬめる洗剤液に塗れた廊下は非情だった。礼二郎は足を滑らせ、どおっと音を立て頭からＧの群れの中に倒れ込む。何十匹かのＧを下敷きに。
「……藤堂が無事なら、それでいい……」
「鮫ノ口くうぅぅぅん！！！」
　月乃の叫び虚しく、礼二郎、完全に沈黙！
　Ｇの群れは礼二郎の身体を乗り越え、最終防衛ラインであるみちるへと迫る。
　みちるはギリギリまで耐えていた。
　間合いを測る。
　星空は――見える！
「あたしが防衛線ったい！」
　みちるは＜ダイヤモンドゲイザー＞を発動した。
　前に張り出した両手からバリアが射出されたかと思うと、防火扉のように展開しＧの行く手を塞ぐ。
　自らの勢いで弾かれるＧ。それを！
　月乃が、いいなが、夏夜が、望月が、切奈が。
　叩く！　叩く！　叩く！　叩く！　叩く！
「オォォォォオオ！」
　マウルが突進してきた。
　彼の目にはＧしか見えていないのかもしれない。マウルの巨躯がバリアにぶつかり、Ｇが散る！
「くっ！」
　みちるはこの一撃をなんとか耐える！
　だが、Ｇとマウルとが塗れあうその異様な光景に、みちるは動揺してしまった。
　二撃目！
「あかんっ！」
　バリアが破られた。
　Ｇたちが最終防衛ラインを突破してゆく……かと思われたそのとき！

「遅くなってごめん。間に合ったかな」
　そこには！
　奈良橋博美に率いられ、薄い本を手に横一列に並んだ寮生たちがいた！
「みんな薄い本を出し渋ってさ……説得に時間が掛かっちゃったんだ」
　寮生たちの顔は泣き笑いである。出したくはない、けれど猫鳴館がＧに埋もれたら明日から路頭に迷ってしまう。そんな葛藤の末の苦渋の選択なのであろう。
「もうＧたちの好きにはさせないよ。バリケード展開！」
　薄い本が廊下に隙間なく並べられる。
「前進！」
　バリケードは徐々にＧを包囲するように狭められてゆく。
　みちるがもう一度バリアを張ることでバリケードは二重になり、どんなＧをも逃がさぬ強固なものとなった。
　いよいよ、Ｇは廊下の一箇所に追い詰められた。
「今だ！」
　博美の掛け声に、一斉にスペシャル洗剤や殺虫剤が掛けられる。
　仕上げにみちると切奈が煮え立った熱湯をかけると、Ｇたちはただの山となり果てた。

　マウルが倒れていた。その身体には沈黙したと思われていた礼二郎が絡みついていた。
「もういい……」
　礼二郎が、最後の力を振り絞って、暴走するマウルを止めたのだ。
　切奈が残った湯をざばっとマウルにかける。
「心配ないです。温くなってますから」
　村雨の爪にも軽く引っ掛かれ、マウルは薄く目をあけた。
　暴走したときのことは何も覚えていなかった。
　アボリジナルの呪いだったのだろうか。それは誰にもわからない。

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