スイート・タイフーンにご注意を？｜リアクション

スイート・タイフーンにご注意を？

「あ、やっぱり綿菓子だったんだね……」
　と蔵人が感心している横で、マキナもジェレミアと一緒に綿菓子をぱくり。どこか懐かしい味がして思わず顔がほころぶ。
「水も効果的、とありましたからねっ！」
　一通り食べ終えた理沙は、持って来たバケツに水を汲む。そして梯子を上って綿菓子目掛け水をざばり、とぶっかける！　と、その部分が派手に抉れて、何故か水あめ（駄菓子屋にあるような割り箸が刺さっている姿）が降ってきた。真央も自分のバケツに水を汲み、理沙を手伝う。
　この間も、台風は動こうとし、美弥子が２度目の『春一番』を起こして引き止める。
（うぅ、結構来るぜ！）
　ハシブトガラスとなった勘三郎が、バケツの水の頭を突っ込んでごくごく。水分補給を終わらせると再び綿菓子を食べようと飛び掛る。
「こんどはこっちから行こう！　もういっかい……ショータイム！」
　落ちてきたあみぐるみをキャッチし、再びろっこんを使う彩葉。少し離れたところでは、濡らしなおした上着を振り回し、雲の切断を行う拓郎の姿が。その凛々しい姿に思わず胸がきゅん、となる彩葉。
「ある程度……削れたかな？」
「なら、そろそろ派手にいこうか」
　拓郎が額の汗を拭うその横で、観察し続けていた修が動く。彼は刀と源一にロープを取るように願うと、綿菓子の雲をにらみつけた。
「台風は渦。渦は数学における不動点定理の不動点なんだ。だから、別の不動点を創出することで……渦は崩れる筈だよ」
　呼吸を整え、止める。掲げられた手が綿菓子の雲に向けられる。

　――分解。

　そう、念じた途端……一斉にお菓子の雨が駅ビル周辺に降り注いだ。その雨が止んだと同時に、真っ青な空が目に入る。
「あぁ、たのしかった！」
「うんうん！　らすぼすもたおせたね！」
　海美と玲音が顔を見合わせて笑いあえば、その場に居た者達も皆笑顔になる。こうして、彼らの戦い（？）は、幕を閉じる事と鳴った。

　種明かしをすれば、修は自分のろっこんで『綿菓子の雲』の一部を分解し『下から上へと貫く棒状の空間』を生み出した。それにより、一気に崩壊したのだ。

　ばらばらと音をたてて落ちていたお菓子がいつのまにか止んでいた。
（ふふーん、いっぱいゲットだね～）
　維都月茉菜はほくほく顔で駅ビル付近にいた。お菓子を拾い続けていた彼女は自然とそっちの方向へ来ていたらしい。
　ビルの方を見れば、ちらほらと人の姿がみえた。飛んだりしているのでより解りやすい。けれどもその時……彼女の目に入ったのは、見覚えのある男性の姿だ。綿菓子の雲を潰すべく何人かのもれいびが駅ビルへ向かっているのはねこったーで知っていたが……。
「お父様……、なんでそこにいるの？　ま、まさか『もれいび』になってたっていうの？！」
　無自覚？　と呟いた茉菜は何故か全身が震えた。
（お父様なんて神魂トラブルに首突っ込まないで、普通に会社の建て直しをしていればいいんだよぉ！）
　だっ、と旧市街方面へ駆け出す茉菜。しかし、その背中を……きっちりと父親である怜は見ていた。
「もしかして……茉菜なのか？」
　怜はお菓子を拾っている娘の姿にあいた口が塞がらなかった。まさか、娘がそんな事をするとは、夢にも思わなかったのだ。
（頼む、誰か見間違いだと言ってくれ……ッ！！）
　がくり、と膝を突いた怜。何故そうなったのか解らない面々は、不思議そうに首をかしげる。ただ、なんとなく何かを察した蔵人は複雑そうな顔になった。

「何はともあれ、無事に終わった。……串田、御巫、伊織先輩、ありがとう」
「いいえ……。こちらこそ、ありがとうございます」
　刀が頭を下げれば、時子がそういい、美弥子も源一も僅かに照れる。屋上に溢れるお菓子を見た時子はそれを拾い「皆で食べましょう」と提案すれば、「多すぎるだろ」と勘三郎が突っ込む。それでも、持てるだけそれぞれ持ち帰ろう、という話になった。

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