言の葉、消えて｜リアクション

言の葉、消えて

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ジェレミア・ベルトーニのオレンジ動物病院は、まだ診療時間中。
でも今日は患畜さんも少なかったから、ちょっと手が空いていて。
少し休憩しようと思い立ち、隣接する自宅の居間へ。
大丈夫、ちゃんとスタッフさんには伝えてある。

居間へ入ると、カーテン越しに夕陽が差し込んでいた。
電気とテレビを着けるとすぐに、灰色の影が一つ小走りに近づいてくる。
愛猫の『すみ』だ。生後半年程度のオスで、まだまだ遊び盛りなお年頃。
遊んで遊んで、とばかりに前足でジェレミアの足をたしたしする姿がとても可愛くて。
そこでジェレミアが手にしたるは猫じゃらし。
こちらも遊ぶ気満々である。
実を言えば、先日拾った赤にゃん達――動物病院の前に捨てられていたのだ――の世話があったりで、すみと遊ぶ時間は最近減っていた。
すみの方が年齢は一応上だけど、まだまだ遊び盛りなわけで。
だから、寂しい想いをさせてしまっているかも――という気持ちもあったりする。
大丈夫大丈夫、患畜さん来たらちゃんと戻るから。そこはちゃんと徹底するから。

――というわけで。
すみの目の前で、猫じゃらしを不規則かつ素早く振り振り。
大好きなおもちゃだから、あっという間にもう夢中だ。
尻尾を垂直に立て、タイミングよく捕まえようと手を伸ばすけど――それより速く、さっと引いてみせる。
そう簡単には捕まらないのさぁ、と満面の笑みを浮かべるジェレミア。
なうっ、と声をあげるすみの頭のちょっと上で、再び猫じゃらしを振り振り。
今度こそ、とお尻を振り振りさせて飛びつこうとするすみ。
それも素早く避けてみたり、とやっているうちに段々ジェレミアも夢中になってくる。
気づくと、すみと同じように猫っぽい声をあげてみたり、首を傾げたり。
更には、いつのまにかボールをたしたしする猫のようなポーズまでしてしまっていたり。
すっかり、野生に返った気分なっているジェレミア。
きっと傍から見ると完全に猫馬鹿だけど、それがどうしたばっちこい。

ふと、ニュースの始まる音声が耳に飛び込んできた。
テレビ画面を見てみると、右上の時刻表示は１８時を示していた。

――しばらく言葉が消えていたことなど、全く気付かなかったジェレミアであった。