言の葉、消えて｜リアクション

言の葉、消えて

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旅鴉月詠の聞いていたラジオから、不意に言葉が消えた。
聞こえてくるのは、電波の都合で走るノイズとBGMだけ。
ふむ、と呟こうとしても、その声も出てこない。
なら、と思考を巡らせる。
これが、神魂による"言葉を言葉として認識できない"現象だと仮定する。
この現象がどれだけ続くかがわからないので、とりあえず実験を行ってみることにした。
まず――と、レタリングで"十"を描こうとしてみた。
レタリングは、絵であり文字だ。
"十"なら、病院マークや十字架という解釈もできる。

結論から言えば。
"十"を描くことはできなかった。
いざ描こうとスケブにペンを向けると、ふっと思考がどこかへ散らばっていく。
念の為、数回繰り返してみたがやはり駄目だった。
……どうやら、"言葉"の定義は大分と緩やからしい。
それを元に、更に思索。
では、初めに病院マークや十字架を想定して描こうとした場合はどうだろう。

――と、試そうとした時だ。
ラジオから、言葉が聞こえた。
先に現象が終わってしまったようだ。
２つ目の実験が不発に終わったのは少々残念だが、まあいい。
瞳を閉じ、"言葉"について思惟する。

まず、"言葉"とは何処から来たのだろう。
ゆっくりと掲げた月詠の指は、頭上を――天を指した。
"言葉"とは、神の業の一つだ。

人間だけじゃない。
動物だって、"言葉"を持っている。
鳴く、吠える、といったモノがそれだ。
あるいは声がないなら、テレパシーのような意志疎通の仕方もあるだろう。
それもまた"言葉"と、そう呼んでいいはずだ。
……動物はいつ、"言葉"を作ったのだろう。
生物には、まだ不明な点が多い。
――のでとりあえず神のせいにして、現実から幻想へと思惟の場を移すことにした。

原初の神は生物を作った。
そして、その生物と意志疎通をできるようするために、言葉を作った――と、考えてみることにする。
ひょっとしたら、神も話相手が欲しかったのかもしれない。
ここではそういうことにしておく。

瞳を開け、さらさらとスケッチブックにペンを走らせ始めた。
まだ言葉を知らない人間という生物を前に、"言葉"というものを教える神の姿が浮かび上がっていく。
『人間という生物に言葉を教える神』

その後、傲慢になった人々が築き始めたバベルの塔を危険視し、憎んだ神は数多の言語を作ることで人類を混乱させた。
あるいは、ただの嫌がらせだったかもしれない。
再びペンを走らせる。
今度は、邪悪な顔でバベルの塔へ天罰を降す神。そしてその塔の周縁で慌てふためく人々。
『悪役顔の神と翻弄される人類』

そうして神が作った数多の言葉は、様々な文化を生んだ。
今も新たな言葉が作られ、そこから新たな文化が生まれる。
数多の言語を作った神も、予想しえなかった事かもしれない。
案外良い星になった、とこの星を眺めて漏らすことだろう。
頬杖をつき、作り上げた青い星を眺める神。その表情は、意外と満足げ。
『頬杖ついて自分の星を眺める神』

そうして出来上がった三枚のイラストを眺め、月詠は満足気に頷いた。
うん、案外良いイラストになった。
折角なので、『ねこったー』にツイートしておく。
言葉について考えた記念だ。

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