言の葉、消えて｜リアクション

言の葉、消えて

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東城六は、寮の自室で一人悩んでいた。
机の上には、一台の携帯。画面に映っているのは、メールの受信フォルダ。
寝子島に来てからというもの、あの人からの連絡が一切ない。
……親身になって接してくれていた人だったけど。
これを機会に、自分と連絡を取り合うことを止めようと思っているのだろう――と、六はそんな風に考えていた。
だから、彼からも一切の連絡をしていない。

……だけど、もしそうじゃなかったら？
あちらに居る時、あの人は気にせずいつでも些細なことでも連絡してと言っていた。
それが、今でも同じだったら？

"表現しないと伝わらない"――自分には、それが足りていないらしい。
だから、余計な心配や勘違いを周囲にさせてしまう。
この間、ようやくわかったことだ。
それまで、考えてもみなかったことだから……あの人にも、今まで同じ思いをさせていたのかもしれない。

……現況を報告するくらいなら、迷惑にはならないだろう。
寝子島では寮に住んでいて、そこから学校に通っている――そんな内容なら、きっと。
礼儀の一つみたいなものでも、あるだろうし。

メールの作成画面を開いたところで、気付く。

……メールが打てない。文面が、うまく形にならない。
連絡を取らなさ過ぎて、どうやっていたかを忘れてしまったのだろうか。
受信フォルダを開き、今までのメールを見ようとしてみる。
……が、今度はそこにあるはずの文字が読めない。
内容が全く頭に入ってこない。
認識できない。

そういえば、寮がやけに静かだ。
いつもなら、賑やかなくらいなのに。

何度見ても、文字の意味はわからない。というかそもそも認識できない。
だけど、絵の意味はわかる。だったら、写真なら問題なく見られるのでは。
そういえば、二人で撮った写真が一枚だけあったはずだ。

画像フォルダを開き、件の写真を探そうとカメラロールを――。
操作しようとしたところで、ふとその手が止まった。

六の胸に、一つ疑問がわき上がる。
……それを見てどうする？
まさか、その写真を送り付けるわけでもあるまいし。
考えること少し、六の思考回路は一つの結論を導いた。
これは連絡をする必要はない、しない方がいいということなのではないか。

理由をつけて行動しない、悪い意味の自己完結。

だけどそれに、六は納得してしまった。

携帯を鞄にしまい、ベッドにごろりと横になる。
ぼんやりと天井を眺めていると、廊下から人の声が聞こえてきた。
いつもの賑やかさが、寮に戻ってきたようだ。

今なら、メールが打てる気がする。
……だけど、もう打たなくていい。
打つ必要は――ない。

ゆっくりと、目を閉じた。