言の葉、消えて｜リアクション

言の葉、消えて

◆
八神修の家には、猫が１４匹居る。
中でも、七匹の子猫は好奇心旺盛かつ元気いっぱい。
白猫ミルクは甘えんぼ。黒猫ブラックは勇敢。
銀猫ミストは気紛れで、ミケ猫マーブルは要領が良い。
ロシアンブルーのブルーは頭が良く、サバトラのパトラはおしゃま。
そして、虎柄のタイガは一番小柄だが忠猫。

そんな子猫達と、勉強のリフレッシュに遊んでいた。
両手に猫じゃらしを持って、飛びつくのに合わせてほいっと引き上げたり逸したり。
そうしていると、子猫達だけじゃなく大人の猫達まで寄ってきた。
合計１４匹と猫じゃらしだけで遊ぶのは流石に無理があるので、毬を持ちだすことにした。
それ、と片手で毬を投げつつもう片方の手では猫じゃらしをふりふり。
気が付くと、毬をとって戻ってきた猫達、猫じゃらしに飛びつこうとして失敗した猫達にたかられるような格好に。
１４匹分の重さに思わず寝転がると、めいめい勝手に修の上で遊びはじめた。
これじゃあまるで猫の遊び場状態である。
そんな風に、すっかり和みきっていた時だ。
ふと目に入った、本棚の本の背表紙。
そこに書かれているはずの文字が――読めなかった。
というか、ない？

何が起きた！　と叫びながら――のはずが、その声すら出ず――猫まみれから起き上がる。
猫達の鳴き声は……聞こえる。
思い出されるのは、文字が脱走してしまった事件のこと。
……今度は、全ての言葉と文字で同じことが起きたのだろうか。
眉根を寄せて思案していると、猫達がにゃあにゃあと見上げているのに気付く。
ひょっとして、慰めてくれているのだろうか。
柔らかく微笑んで、慈しむように猫達を撫でる。
さて、正確には一体どういう状態なのか……。
とりあえず、手近なところにある本をめくってみる。
……本文はさっぱりだが、図や写真はわかる。
ただし、そこに書かれているはずの言葉はさっぱりだ。
窓から見える近所の様子は……目立った変化は見られない。
じゃあ、テレビは？
……丁度番組と番組の合間のニュースがやっているが、全くもってサッパリだ。
一応、映像はちゃんと見えている。
あと、終わる時の効果音も聞こえる。
ただ、肝心のニュースの内容を告げるテロップが全くわからない。
そこにあるのかどうかさえ。

無言で唸りながら、机に戻る。
おもむろに一枚切り取った紙に、平仮名を一つ書――け、ない。
…………。
一文字ずつ書き、その後意味が繋がるように並べ替えて変化を見るつもりだったのだが……。

……なら、ただの音は？
特に意味もなく、猫の鳴き真似をしてみる。

にゃー。

……鳴けた。

もう一度。

……にゃー。

気が付くと、猫達を撫でながら意味もなくにゃーにゃー鳴き続ける修という何とも言いがたい構図が完成していた。

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