フリマへ行こう！｜リアクション

フリマへ行こう！

●買い物する陽太と、昼時の『ラッコ』
　そのころ。
　客足がまばらになって来たこともあり、陽太は店番を彩斗に任せて、買い物に出かけた。
「い……いってらっしゃい……」
　ひどく寂しそうな顔で見送る彩斗に、「そんな寂しそうな顔するなよぅ。すぐ戻るってばー」と言い置いて。
　その彼がやって来たのは、アリーセの店である。買ったのは、チャーム付きのシュシュの青だ。
「天然石は、アクアマリンで頼むねー」
「了解。……もしかして、彼女へのお土産なの？」
　うなずいて、青いシュシュにチャームをつけながら、アリーセが尋ねる。
「違うよぅ。これは、母さんへのプレゼント用だよー」
　笑って答える陽太に、アリーセは袋に入れたシュシュを差し出した。
　そこへ顔を出したのは、冴来だった。
　彼女は、古本屋で詩集を買い、そのあと疲れたので屋台でみたらし団子を食べ、そろそろ出来上がったかと、ペンダントトップを受け取りに来たのだ。
「できてるかな」
　尋ねる彼女に、アリーセは笑顔でうなずく。
「できてますよ。これでいいか、確認してみて下さいね」
　言って、別に置いてあったペンダントトップを彼女に見せる。
　冴来は、手に取って眺め、満足げにうなずいた。
「ええ。ありがとう」
　そして、その分の代金を払うと、店を立ち去って行く。
　アリーセもまた、その背を笑顔で見送った。

　一方、一人残された彩斗は。
「らっこは……らっこはいりませんか……？」
　陽太が喜ぶように、がんばって売ろうと、とりあえず呼び込みなどしてみた。が、声が小さいせいで、それでなくてもまばらな客は、足を止めてはくれない。
　と、ふいに店先に立ったのは、詰襟と外套姿の無銘である。
　彼は品物をひとしきり眺めたあと、訊いた。
「こういうのは、どこかで買って来るのか？」
「いえ……。これは、おれとよーたで作ったんです。よーたが作って、おれが色を塗って……」
　かぶりをふって、彩斗はぼそぼそと説明する。
　途端に無銘は、目を丸くした。
「こんなのを、自分で作れるとは、並の腕じゃねぇ！　感心したぜ！」
　叫んで、またひとしきり品物を眺めたあと、「じゃあな。がんばるんだぜ」と告げて、結局何も買わずに立ち去って行った。
「え……。あの……」
　それを彩斗が呼び止めようとしているところへ、今度はシルベがやって来た。
　彼女は、並んだ品物を眺めたり、手に取ってみたりしたあと、コスモスと天然石のブレスレットとラッコのマグネットを彩斗の方に差し出した。
「これ、お願いします」
「は、はい。ありがとう……ございます……」
　慌てて受け取り、紙袋に入れて、会計する。
　品物を手に立ち去る彼女の背を見送り、彩斗は小さく吐息をついた。
　そのあとも、ぽつぽつと客は訪れ、それなりに品物は売れて行く。
　陽太が戻って来るころには、いくつか完売品が出るほどになっていた。
「よーた……おれ……頑張って売ったぞ……！」
「すごいなー、あやと。ブレスレットとラッコのマグネット、完売してるよぅ」
　告げる彩斗に、陽太も品物を見やって目を見張る。そして、真央の店で買ったランチバッグを差し出した。
「これ、あやとにお土産だよぅ」
「え……。おれに、くれるの……」
　驚く彩斗に、陽太はうなずく。
「うん。一人で店番してくれた、お礼だよー」
「ありがとう……」
　彩斗は、ほわっと笑うと、それを受け取った。