デンジャラス・スリッピー・ゾーン｜リアクション

デンジャラス・スリッピー・ゾーン

◇類義語さがし
　電信柱に郵便ポスト。
　手すり代わりになるものを片っ端からつかみ、三上は自身の通う中学校の近くまで来ていた。
　つかまり立ちをしながら辺りの地面を調べ終えた三上は、ふーん、と納得したように頷いた。
「ここはつるつるだけど、こっちはすべらない訳ね」
　摩訶不思議な現象だが、カラクリがわかれば大分気が楽だ。
「しかし、これじゃ見分けがつかねーな」
　悩んで立ち往生していると、傘を手にした曖浜が後ろからやってきた。
「あれ、おにーさんどうしたのー？」
　曖浜に気づき、後ろを振り向く。
「ん？　ああ。今日の道路やたらとつるつるするだろ？」
「うん、つるっつるだねぇ。ここまで来るの大変だったよぉ」
　すべる、という言い方をあえて避けて説明する三上。
「踏んでも平気な道を通ってここまで来たんだけど、安全な帰り道が分からなくなっちまってな。危なっかしいから用事がすんだらさっさと帰りたいんだけど、どうしたもんかなーって」
「うーん、たしかにあぶないねぇ。……そうだ」
　思い立ったように曖浜は鞄をさぐり、水性絵の具をとりだした。
「これでつるつるする所に目印かくの、どうかねぇ？」
「おー、ナイスアイディア！」
　うなずく三上。絵の具はすぐになくなるかもしれないが、これなら危ない箇所を踏まずにすむだろう。
「あ、でも僕、絵の具をとくもの持ってないや」
「水でよかったら、これ使いなよ？」
　三上がとりだしたものはミネラルウォーターのボトル。
　飲用なのでもったいない気もしたが、背に腹はかえられない。
　二人協力して絵の具をパレットでとき、筆の先でサインを書いていく。
「スリップ注意、と」
　一箇所目印を付け終えてふりむくと、曖浜が鼻歌まじりに字を書いていた。
「なになに……」
　そこには受験生が何より目にしたくない『すべるよ』の文字。
　受験生には禁句の文字が、かわいらしい筆跡ででかでかと書かれていた。
　見るなり固まってしまった三上を、心配そうに曖浜がながめる。
「どうしたの？」
「いや、なんでもないんだ……ハハ」
　大丈夫と言い聞かせるものの、三上の喉からは乾いた笑いしか出なかった。