デンジャラス・スリッピー・ゾーン｜リアクション

デンジャラス・スリッピー・ゾーン

◇禁ワード
　室内でこもった後の身には、日差しは一段とまぶしく感じる。
　ミラーの反射光に目がくらみ、三上塁はちらつきを振り払おうと眉間を押さえて頭をふった。
「ただでさえ暑いってのに……毎日これだと気が滅入るぜ、ホント」
　参考書を買うために出ただけなのに、勉強する気力が根こそぎそがれてしまいそうだ。
　苛立ってひとりごちていると、十字路の向こうから叫び声が聞こえた。
「きゃー！？」
「なんだ今の？」
　何事かとあたりを見渡していると、遠くのほうで三人の女の子が立ち往生していた。
　幼い少女二人は女子高生にしがみつき、必死に転ばないようにしている。
　……が、ひんぱんに足を滑らせていて様子が変だ。
「何かあったのか？」
　妙だと思って一歩踏み出した、その瞬間。
「うおっと！？」
　足がすべ――もとい、前方に向かってスライドした。
　あやうく前後股裂きの刑になりかけながら、何とか体勢を立てなおして一息つく。
「は、ははは……なんて不吉な」
　そう思うのも無理のないこと、彼は来春に寝子高を受ける受験生。
　安全圏内とは言われても、何事にも絶対はない以上安心できない。
　父母の期待を背負った受験生に、「す」や「お」から始まる三文字は厳禁だ。
「何がどうなってるのかわからないけど、安全な所まで移動しないと」
　足の指先で地面をつかむようにバランスをとり、慎重に一歩ずつ壁際へと移動する。
　ようやっと歩道まで来た時、足元の地面がふだん通りであることに気づき、
　三上はほっとして胸をなでおろした。
「やったぞ……やっとすべらない所に来た」
　安全圏という言葉の響きの、どれほど心強いことか。
　確かめるように何度も繰り返す。
「そう、すべらない。もう一度言うが、俺はすべらない！」
　ひとしきりから笑いした後、うなだれる三上。
　今が一番しんどい時期、ゲン担ぎとわかってても気にせずにはいられないのだ。