ろっこん・トラブル・シューティング｜リアクション

ろっこん・トラブル・シューティング

【寝子島シーサイドタウン】

　ぷーぱー♪

　笛の音が町を行く。吹いている主は西野町かなえ、自家製豆腐の移動販売中だ。
「ふーちょっと遠出しすぎたでー」
　リアカーを引き引き、気づけば旧市街を出てシーサイドタウンまで来てしまっていた。
「うっかりしてもうたなー。でも売り上げ上々やったしよしとしよか」
　額で汗を拭う。途端に疲れとのどの乾きを覚えた。
「そや！」
　手の平をピシャッと叩く。
「らんちゃんがバイトしとるコンビニここら辺やったな！」
　関西の幼なじみのバイト先を思い出す。
「おるかなーらんちゃん、飲み物買うついでに行ってみよ！」

「ふわぁ」
　レジの前で四野辺蘭月は大きなあくびを一つした。
（今日も暇やねー）
　木天蓼市が誇るローカルコンビニエンスストア「ネコンビ」で働く蘭月は退屈な時間を過ごしている。
（なんか面白いことでも起こらんかなー）
　と思ったと同時に入り口のドアが開く。
「いらっしゃいませー」
　２０前後と高校生らしき若い男２人が仲良く来店。さらに続けて、屈強そうな大男。やや遅れてフード付きベストを着た茶髪の青年。
「いらっしゃいませー（一気に波が来よったなあ。レジ混まんとええけど）」

　先に入った２人は霧生渚砂と霧生深雪だった。
「最近はコンビニのスイーツも侮れないんだよ」
　冷蔵棚にずらりと並ぶ、プリンやコーヒーゼリー、杏仁豆腐などを物色していく渚砂。お菓子作りを趣味にしている。
「特にネコンビは他の大手と違って気合の入り方が別格でね」
「へぇ……」
　隠れ甘党の深雪としてはどれも魅力的だったが、書棚に並ぶ本たちにも惹かれる思いがあった。
「音楽雑誌に格闘雑誌に……結構充実してるんだな」
　一冊に手を取ろうと近寄ったが、大男に立ちはだかれる。
（おお、強いなこのおっさん）
　しかし彼が手に取ったのは占い雑誌だ。
（見た目に似合わず可愛い趣味だぜ）
　背後の渚砂が声をあげる。
「おー剛君！　久しぶりだな！」
「あれー砂兄、偶然やな！　お、深雪も！」
　フード付きベストを着た青年は服部剛だった。
「暑くてかなわんから、アイスでも買お思てな」
「ほんと今日も暑い暑い」
　コンビニで偶然出くわした３人、しばし談義にふける。

「まいどー」
　蘭月は新しく入って来た2人組の対応をしている。見た目は中学生に見えなくもないが、もしかしたらもっと上の年齢かもしれない。もう１人は真面目そうな眼鏡が特徴的だ。
「あの……」
　口ごもる少年。
「はい何ですか？」
「これに」そわそわとした動きで、大きなバッグを差し出す。「レジに入ってるお金全部詰め込んでください」
「は？」

　そんなタイミングでちょうどネコンビに現れたのがかなえ。
（お、わりと繁盛しとるなあ）
　リヤカーを駐車場の脇、厳ついバイクの横に置いて自動ドアをくぐる。
（らんちゃん頑張っとるなあ……ん？）
　入った瞬間、店内の異様な雰囲気に気づく。
　レジに立つ蘭月が素っ頓狂な声をあげた。
「ご、強盗……？　こんな真っ昼間に？」

　直後、ドスンという小さな揺れがあり、かなえの背筋が冷たくなるのを感じた。
「は？」
　後ろを振り返ると、そこにあるはずのシーサイドタウンのありふれた景色が、黒一色に塗り替えられていた。
「え？」
「なんやこれ」
　雑誌コーナー付近で雑談していた剛たち３人も、窓の外が「無くなった」ことに気づいた。
（神魂……か？）
　渚砂の直感が冴える。