ろっこん・トラブル・シューティング｜リアクション

ろっこん・トラブル・シューティング

【星ヶ丘】

　大人しめの服装で気品のある少女が星ヶ丘寮を出てきた。
（退屈だから外に出てみたはいいけど）
　すぐ後ろを付いてくるメイドをちらり返り見る。
「リコもついてくるのですね」
「はい」
　少女……いや、実は彼女ではなく彼、絹織真由良は叔父のせいで女装して寮生活を送っている、歴とした男性だ。そして彼のメイドの名はリコシェット・R・阿久津。ウェーブした長い黒髪と褐色肌が特徴で、見た目からして中東系の人間と連想させる。
「真由良様、暗くなる前には帰りましょうね」
「分かっています」
　寝子島に来て日は浅い。一見何もなさそうで、ここには他にないイベントや魅力であふれている。外に出れば何かしら面白いことに出くわすだろう。そう期待しての散歩だった。
「あら」
　男女がこちらへ向かってくる。
「真由良様、そんなジロジロ見て、はしたないですよ」
「あれは何ていう食べ物でしょう」
　パンに野菜や肉をたっぷり挟んだ食べ物を美味しそうに頬張っている。
「ケバブではないでしょうか」
「ふうん（お店が近くにあるのかしら）」
　すれ違い際、彼らの会話が耳に入ってくる。

「この辺で最近、大きな影に襲われるって事件が多発してるらしいじゃん」
「何それこわぁ」
「こっちのほうって人気のないとこ多いしねぇ」
「気をつけよっと」

（大きな影……）
　真由良は最近見る夢のことを思い出していた。無骨な影が、目を光らせて立ち上がる、という不可解な夢。
（何か関係が……？）
「真由良様、私ご夕食の下ごしらえを忘れておりました。いったん戻ります」
「分かりました（やった、一人になれるっ）」
「ご夕食のお時間までには必ずお戻りください。食べ歩きはダメですよ」
「はいはい！」
　早足で引き返していくリコシェットを見送った後、人気の少ない星ヶ丘の路上でまた思う。
（大きな影か……）

　一方こちらも星ヶ丘地区、中性的な見た目の少年が周りをキョロキョロ見ながら歩いている。彼もまた大きな影の噂を聞きつけて駆けつけていた。
（最近巷を騒がせる数々の難事件、警察も手を焼いていると聞きます）
　彼の名は神助天佑。色々な意味で多感な中学２年生だ。
（きっと裏には大規模な組織があるはず）
　数ヶ月前、天佑に宿った謎の能力。同時に沸き始めた数々の事件。天佑は使命めいたものを感じていた。

　視界の端を何かがスッと通る。瞬時に身構えるが猫が塀の上を伝っているだけだった。
（油断はできません。猫が組織の首謀者であることも考えられます）
「にやぁ」
　あくびを一つして見せ、猫は塀の向こうへ消えた。
（はっ）
　塀から前方へ視線を戻した天佑、すぐそこの曲がり角から伸びている細長い影に気づく。
（まるで誰かを待ち伏せして悪さをするつもりのような……怪しい！）
　颯爽と駆け出し、不意を突くようにして角を曲がる。
「何者だ……ってひゃああ！」
　長身な相手の顔を見るため、首をほぼ９０度傾け驚く天佑。
「天佑君だー！」
　影の正体がぎゅーと天佑に抱きつく。
「や、矢萩先輩……ちょっと！？」
　天佑より一つ上の先輩、矢萩槇。
「あの、ちょ、こ、困ります！」
　赤面する天佑。
「２人きりだからいいかなーって思ったんだけど……駄目だった？」
　２人の身長差、実に４０センチ弱。槇に抱かれると天佑の足はプラ〜ンとなってしまう。
「駄目というか、僕は一応男なんですけど……それに今は巡回中で」
「え、巡回？」
　天佑から事情を聞く槇。
「なんだーそうだったのね。実は私も不審者の目撃情報があったからパトロールしてたんだよー。お姉ちゃん達や友達が巻き込まれないようにね」
「では目的は同じだったのですね（組織を追う味方が増えるのは嬉しいことです）」
「うんうん、一緒に探そう（やった、天佑君とお散歩！）」
　そう言うと無理やり天佑の手を引っ張り鼻歌まじりで歩きだす。
「わわ、先輩ちょっと……！」
（うふふ、弟ができたみたいで可愛い！）
　確かに端から見れば、年の離れた姉弟が仲良く散歩しているようにしか見えない。
（なんだかなあ……）
　天佑はため息を一つ。
（それにしても……）
　天佑の顔が赤から青に変わる。
（矢萩先輩の影を、巷で話題の凶悪巨大な影だと思ったなんて……口が裂けても言えません）

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