不思議なお面にご用心？｜リアクション

不思議なお面にご用心？

「どういうことだよおっさん！」
「どうといわれてもねえ」
　由貴と樹弥がどんなに問い詰めても、店主はのらりくらりと交わし、お面のことについて何も語ってくれない。
「だ、か、ら！　どうやっても外れないんだって！　ぜってー不良品だろこれ！」
「でも他の方は普通ですよ。こんな苦情は初めてです」
「だーっ！　いい加減にしろよ！」
　さっきから三回も同じ会話を繰り返している。店主と会話している由貴はそろそろ堪忍袋の緒が切れそうだ。
　樹弥も由貴に加勢しようと口を開こうとするが、少し思いとどまる。
（紳士たるもの、だ。冷静でいないと）
　それはイギリス人の父によく云われていることだ。頭に血がのぼっていては解決策も浮かばない。
「とにかく、落ち着こう。よく考えるんだ」
「そ、そうだ……よな」
　由貴もその言葉にはっとし、語気を荒げるのをやめた。しかし、そうは云っても不安は拭えない。
　店主は笑った面をつけているかのように表情を崩さず、何も教えてはくれなかった。
　このまま取れなかったら、と考えだすと、お面に隠れている由貴の青い瞳がひとりでに潤みだす。
「これも縁日のひとつの楽しさだよ。いつもよりスリリングだろ？」
　そう話す樹弥も内心は穏やかではない。
　しかし、年が近い由貴にこれ以上子供っぽい部分を見せたくなかった。
　そんな時、屋台にまたひとり客がきた。小さな男の子だ。
「わんわんのお面ありますか」
「ごめん、売れちゃったんだ」
　男の子は犬のお面にしか興味がないらしく、そのまま帰ってゆく。その様子をぼうっと眺めていた由貴が突然叫んだ。
「赤い犬だ！」
「犬？」
「犬の鳴き真似してる人達がいたんだ。おかしい奴らだって思ってたけど、ひとりはお面してた。もしかしたら、お面の真似をすれば取れるのかも……」
　樹弥は半信半疑というように話を聞いていたが、最後には深く頷く。
「よし、やってみよう。それで取れなかったら、このお面屋に責任とって貰おうじゃん」
　そんな脅し文句にもひるまず、店主はにこにことふたりを眺めるだけだ。
「こいつ、ほんと腹立つ！」
　由貴が捨て台詞のように店主に云い放ち、茂みの方へ歩き出した。
「どこ行くんだよ」
「誰にも見られないとこ！　公衆の面前であんなことしたら、俺達も不審者だぜ」
　その言葉に納得し、樹弥もあとに続いた。茂みの辺りは暗く、人もいない。お面のまねごとをするにはもってこいだ。
「いっせーのーせだからな。ズレるなよ」
「そっちもな」
　いっせーのーせ、と一緒に声をかけ、由貴は指を鉤爪のように曲げ、樹弥はてのひら全体を丸める。

「こんこん」
「がうがう」

　ふたりで同時に固まり、同時にお面に手をかけた。
「は、外れた」
「良かった……」
　てこでも離れなかったお面は、するりと草の中に落ちた。
　ふたりは改めてそれぞれの顔を確認し、お互いの青い瞳に驚きつつ、決まりが悪そうな顔をみて笑いだした。
　どうやら考えていることは一緒のようだ。
「樹弥、絶対今のこと誰かに云うなよ！」
「勿論！　俺達だけの秘密だな」