不思議なお面にご用心？｜リアクション

不思議なお面にご用心？

＜かっこつけたいお年頃＞

　双葉由貴はたこ焼きと焼きそばを交互に掻きこみながら、目の前にいる不審な人物達を眺めていた。
　赤髪の青年はわんわん鳴いているし、金髪のほうは赤髪の頭を撫でたりお手をさせたりしている。
「……新手のプレイ？」
　関わらないほうが得策と考え、ゆっくりと立ち去る。食べ終わった容器を道のゴミ箱に捨て、ぶらぶら散策を始めた。
　次第に屋台もまばらになる縁日の隅。そこで屋台を開いていたお面屋に、由貴は釘づけになった。
　
　少し前に放送していた戦隊モノのお面、その中でも特にすきだったイエローがある。
　マスクの細かい凹凸から微細な色を使って再現された本物そっくりの質感まで、どうしてこれがコインで買える値段で売っているのか不思議なほどだ。
　思わずそのお面に手を伸ばそうとした時、隣に人がいることに気がついた。隣もこちらに気づき、あ、という顔をする。
　同じ年頃だろうその少年は、可愛らしい狐のお面をつけていた。こちらをみてばつの悪い顔をしたことで、由貴にも少年の気持ちが伝染してくる。
（危ない危ない。戦隊モノなんてガキっぽいの、同年代の前で買えないじゃん）
　泣く泣くイエローは諦め、「カッコよさ」に重点をおいたお面を選ぶ。最終的に狼のお面をとり、店主に小銭を渡した。
（よし、これならガキっぽくないはずだ！）
　満ち溢れる自信と共に、由貴は颯爽とお面をつけた。

　樹弥・エヴァンズの本当の目当ては食べ物だった。しかし、この屋台の圧倒的なお面の数に、ついつい足を止めてしまったのだ。
　すかさず愛想のいい店主がいらっしゃいと声をかけてくる。
（でも、母さんのお土産にいいかもな）
　目に入ったのは、瞳の形が普通のものより柔らかく描かれた狐のお面だ。
　店主に話してお面をとってもらい、試しに自分でかむってみると、案外さまになっているような気がしてくる。
（試しだ、試し。お面を手に持ってるのもおかしいし）
　自分自身にそう云い聞かせ、お面をつけたまま勘定をしている時に、自分と同じ年頃の少年が隣に立っているのに気づいた。
　すぐに目を逸らす。
　自分より背の低い少年は、狐の面を子供っぽいと思ったかも知れない。そんな考えがよぎる。
（外そう。それとなく外そう）
「……うん、これなら母さんも喜ぶかな」
　苦し紛れでも「母へのお土産」と云うことを知らせたかったのだが、少年はお面を選ぶのに必死で樹弥の話を聞いていない。
　仕方ないので屋台を離れ、お面だけでも外そうと手を掛ける。
　しかし、どんなに引っ張っても、お面が一向にはがれない。しばらく頑張ってみたが、動く気配もなかった。
「なあ、どうした？」
　あたふたしているのが分かったのか、さっきの少年が声をかけてきた。既に狼のお面をかむっている。
「いやなんか、お面がとれなくて。きみは平気？」
「マジで？　どっかひっかかったのかな。俺は平気だよ、ほら……って、とれない！？」
　なんでだよ！　とセルフツッコミまでこなす少年に、思わず樹弥が噴き出すと、少年は耳を赤くしてそっぽを向いた。
　どうやら子供扱いされたと思ったらしい。
「と、とにかく！　これは不良品だ！　苦情云いに行こうぜ」
「うん、ありがとう。笑ってごめんな。俺、樹弥って云うんだ」
「俺は双葉由貴。……云っとくけど、さっきのことなんて全っ然気にしてねーから！」
　態度に出やすい奴だな、と樹弥は見えないようにまた笑った。

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