不思議なお面にご用心？｜リアクション

不思議なお面にご用心？

＜猫、犬、そしてブリーダー？＞

　今日は寝子神社の縁日。多種多様な屋台が並び、辺りは賑やかだ。
　そんな軒並から少し外れた隅のほう。
　そこに奇妙なお面屋が屋台を出していた。品数は普通の屋台の比ではない。
　種類もアニメの少女や特撮のヒーローから、動物、芸能人、ゆるキャラと、なんでもござれだ。

　店を眺めていたのは、菖蒲柄の落ち着いた浴衣を着こなした綾辻綾花。
「懐かしいですねえ。私もよく、魔法少女のお面を買ってもらいました」
　ひやかし程度にお面を眺め、そのままするりと通り過ぎようとした綾花の足が、ぴたりと止まった。
「か、かわいいです……っ」
　目に留まったのは、つぶらな瞳をした白猫のお面だ。感激のあまり震えだす綾花に気づき、店主はにっこりと口角を上げる。
「よかったらかむってみるかい」
「いいんですか？」
　渡されたお面は、綾花の小さな顔にぴったり合う。まるで綾花の為にあつらえられたようだ。
　気がつくと、綾花は小さながま口を開いて代金を払っていた。その最中にも、ちらと眼の中に移り込んだ猫を見逃しはしない。
「あ、猫ちゃんです！」
　ぱたぱたと後を追いかけてゆく後ろ姿を見送る店主はひとりごちる。
「ふふ、本当に猫のようなお嬢さんだ」

　猫はしばらく歩くと、柔らかい草の生えた場所にごろりと転がった。
「初めてですね。にゃんにゃー？　にゃーにゃにゃー」
　鞄からメモ帳を取り出し、猫の様子を書きつけながら、綾花は猫と会話をしていた。すると次第に、段々と別の猫も集まりだす。
　どうやらここは猫の集会所のようだ。顔見知りの猫から、初めて会う猫まで様々いる。綾花は目を輝かせた。
「にゃにゃんにゃー」
　猫の一匹が不思議そうにお面に顔を寄せる。猫に夢中になりすぎてお面をかぶったままだったのを忘れていたのだ。
「にゃにゃにゃ……」
　恥ずかしいです、と云ったつもりの綾花の後ろから、別の声が聞こえてくる。
「にゃんにゃんネコちゃ～ん」
「にゃーにゃ……はい？」
「ネコちゃんかわいいねー」
　振り返った綾花は、真後ろに突如出現した金髪の青年をどうしていいか分からなかった。
「猫、すき？」
　急にそう尋ねられ、綾花は正直に頷いた。
　どうやら相手も猫目当てでここに来たらしい。ならば同士と、緊張をほどき、積極的に話しかける。
「猫ちゃん、本当に可愛いですよね。私もついここまでついてきてしまって」
「うん、でも顔が見えないのが残念～」
「はい？」
　その青年はにっこり笑いながら、お面に手を伸ばしてくる。
「顔、見せてねぇ」
　青年の指が触れそうになったその瞬間、綾花の膝に乗っていた猫が警戒して逃げだした。
　すると、様子をうかがっていた他の猫も散り散りになってゆく。
「あ！　待ってください！」
「えー、行っちゃうの？」
　青年の声は、猫にまっしぐらの綾花にはもう届かなかった。
　

　肩透かしに終わった羊飼依津は、浴衣姿の綾花を見送った。
「まあ、またどこかで会えるよねぇ」
　そしてまたぷらぷらと気の向くままに歩き始めた。
　依津の目的は縁日よりもかわいい「生き物」を探すことにある。
　でもその足は、ずらりとお面を並べた奇妙な屋台の前で止まった。
「うわあー、お面屋だあ。ねえおじさん、ネコちゃんのお面ない？　ワンちゃんでもいいよお」
「いらっしゃい。犬は売れたけど、色々種類があるから見ていくといい」
「残念だなぁ」
　とは云いつつ屋台を眺めていると、横から勢いよく腕を引っ張られた。
「君、ここのお面、気をつけたほうがいいよ」
　そう囁いた青年は犬のお面をかむったまま、依津をお面屋から離れた場所へ連れてゆく。
　依津はその赤い髪とお面を食い入るように見つめたまま、なすがままにしていた。

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